デジタルPCR

マルチプレックスデジタルPCR

マルチプレックスデジタルPCRとは何ですか?

PCRにおけるマルチプレックスでは、1回の反応で複数のターゲット分子やシークエンスを検出できます。デジタルPCR(dPCR)を用いるマルチプレックスは、使用する蛍光色素の種類を変えることで実現できます。従来のマルチカラーマルチプレックスでは、ターゲットごとに1つのプローブを使用し、発光スペクトルの異なる色素と結合したプローブを用いることでターゲットを区別します。ほとんどのdPCR装置では、少なくとも2つの専用検出チャンネルで異なる蛍光色素を検出します。一部のdPCRシステムでは、5色マルチプレックスにより、同じ反応内でより多くのターゲットを明確に識別できます。

dPCRでのマルチプレックスは、dPCRシステムによるマルチプレックスの利点が多いため、関心が高まっているテーマです。このアプローチは、次のような目的で使用できます: 

  • 1回の反応で複数のターゲットを分析
  • ピペッティングの不正確さなどの技術的エラーを削減
  • ターゲット検出の可能性を高める
  • 分析に必要なサンプル量を削減
  • 個々の反応の直接内部コントロールを提供
  • 時間と試薬を節約して、全体的なコストを削減

デジタルPCRによるマルチプレックスでは、シングルカラーアッセイでは不可能、または容易に実行できないいくつかのアプリケーションが可能です。 このような分析には次のようなものがあります。

  • コピー数変異:2プレックスのアプローチにより、ターゲット遺伝子とリファレンス遺伝子をペアリングし、その比率を決定
  • 一塩基変異や小さな挿入/欠失の二対立遺伝子変異:2つの加水分解プローブを用いる2プレックスのアプローチで、2つのプロットを用いて可視化(1)
  • 遺伝子型決定:シングルおよびダブルポジティブクラスターからパーティション数を計数(1)
デジタルPCRマルチプレックスの利点を最大限にするには、高度なマルチプレックス機能を備えたデジタルPCRシステムをご検討ください。

高いマルチプレックス能力を備えたデジタルPCR装置では、1つのサンプルの複数のターゲットを、高い感度と再現性で分析できます。たとえば、QIAcuityデジタルPCRシステムには、サンプルやターゲット分析のニーズに合わせて、いくつかの構成が存在します。

マルチプレックス反応におけるナノプレートデジタルPCRの利点

マルチプレックスデジタルPCRは、マルチプレックスqPCRよりも柔軟性、感度、特異性が高い方法であるため、好ましいアプローチといえます。qPCR によるマルチプレックスでは、絶対値を計算するためにより複雑な方法が必要になる可能性もあり、この方法は1つの反応で複数のPCRの干渉の影響を受けやすくなります。

ナノプレートデジタルPCRは、短いラン時間、高い精度と感度、マルチプレックス機能など、他のタイプのデジタルPCRに比べ、明確な利点を備えています。ナノプレートは、バルクドロップレットの分析ではなく、個々のPCR反応に依存するため、希少なターゲット(<10~20コピー/反応)を見つけることができます。

ナノプレートデジタルPCRはさまざまサンプルマトリックスに対応できるため、AAV生産のより多くのステージでタイター測定が可能です。またQIAcuityデジタルPCRシステムでは、独立したユーザーが複数のアッセイを並行して行い、生産性を高めることもできます(29)。

 QIAcuityデジタルPCRシステムのハイスループットおよびマルチプレックス機能

  QIAcuity One  QIAcuity Four  QIAcuity Eight 

検出チャンネル (マルチプレックス)

2または5 

1就業日に分析するサンプル数 

最大384 

最大672 

最大1248 

推奨色素 

FAM;VIC、HEX;TAMRA;ROX;Cy5 


5プレックスdPCRデータとは、どのようなものですか?

左図では、dPCR反応のテンプレートインプット量として10 ng(A、上パネル、下パネル)および1 ng(B、上パネル、下パネル)のcDNAを使用しています。QIAcuity One、5プレックスシステムを用いて、QIAcuity Nanoplate 8.5K 96ウェルで5プレックス反応を行い、5つのアッセイターゲット(ERBB2、EGFR、CDKN2A、KDR、CDK1)を測定しました。プローブはそれぞれFAM、HEX、TAMRA、ROX、Cy5で標識しました。 2D散布図は、マルチプレックスセットアップにおける単一アッセイの明確な分離を示しています。

dPCRマルチプレックスに関する初歩的な質問がまだいくつかありますか?弊社のQIAgeniusがお答えできるかもしれません。
マルチプレックスdPCRアッセイは、さまざまなデジタルPCRアプリケーションをサポートできます。細胞および遺伝子治療から、食品偽装調査、AAV特性評価、微生物検出、コピー数多型アッセイなど、多岐にわたります。
食品アプリケーション向けのマルチプレックスdPCRアッセイ

マルチプレックス デジタルPCR アッセイは、食品産業に多くの用途があります。食品の規制管理や品質保証では、マルチプレックスdPCRアッセイを適用して、動物種の識別や、肉や肉製品、魚種などの起源を検出できます(2、3)。たとえば、デジタルPCRマルチプレックスを使用すると、1回の反応で、ブタ、ラクダ、ヒツジ、ロバ、ヤギ、ウシ、ニワトリの起源の識別に成功します(2)。

dPCRによるマルチプレックスは、GMO検査や、transgene-endogene(導入遺伝子-内在遺伝子)マルチプレックスPCR反応を用いる導入遺伝子の定量にも利用できます(4、27)。ある試験では、2プレックスdPCRアッセイを使用して、トウモロコシ飼料サンプル中のMON810導入遺伝子レベルとHMGリファレンス遺伝子レベルを比較しました。マルチプレックスdPCRアッセイでは、5つのターゲットDNAコピーの感度を得ることができ、これは、qPCRよりも、優れた再現性と種子粉末への阻害剤耐性を示しました(5)。

食品偽装は、デジタルPCRによるマルチプレックスのもう一つの主要なアプリケーションであり、たとえば、ベジタリアンやビーガンの加工製品に含まれる動物由来成分の検出に使用されます。ほとんどの動物に特異的なミトコンドリアシトクロムb遺伝子と、植物種に特異的な葉緑体DNAの増幅に基づくマルチプレックスdPCRアッセイを使用して、ベジタリアン食品中の動物由来成分を検出できます(6)。 

最後に、 dPCR は、重篤な食中毒の検出に使用できます。デジタルPCRによるマルチプレックスにより、 E. coliL. monoytogenesS. aureus 、 S. enetrica などの微生物病原体を同時に検出できます(7)。

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コピー数多型アッセイにおけるマルチプレックスdPCR

コピー数多型アッセイでは、dPCR によるマルチプレックスを使用してターゲット遺伝子とリファレンス遺伝子をペアにし、2プレックスアプローチを用いてその比率を決定できます。

ある試験では、デジタルPCRマルチプレックスを使用して、遺伝子変異、遺伝子融合、遺伝子重複の同時検出に成功しています(8)。また、神経芽腫の2つの主要ながん遺伝子と2つの正常な二倍体リファレンス遺伝子の同時コピー数評価も行うことができ、貴重なサンプルを節約できました。マルチプレックスdPCRアッセイは、遺伝子変異、融合、重複の同時検出に100%の特異性と感度を示しました(9)。

dPCRマルチプレックスによるコピー数多型アッセイのもう一つの例は、脊髄性筋萎縮症(SMA)サンプルの遺伝子型決定です。この試験の著者は、デジタルPCRによるマルチプレックスを用いて、RPPH1をリファレンス遺伝子内部コントロールとして、SMN1とSMN2のコピー数を定量しました(10)。また、この試験では、デジタルPCRマルチプレックスを使用して、BRCA1遺伝子の大きな欠失や重複を正確かつコスト効率よく検出できるだけでなく(11)、非小細胞肺がん(NSCLC)におけるMETとHER2増幅も検出できることが示されています(28)。

別の試験では、凍結した正常および扁平上皮がん(SCC)サンプル由来の15種類のゲノムDNAバイオマーカーのコピー数変化(CNA)を定量するために、 マルチプレックスdPCRアッセイ を開発し、最適化しました(12)。

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dPCRによるCNV分析について詳しくお知りになりたいですか?
弊社のウェビナー「dPCRを使用するリキッドバイオプシーにおけるコピー数多型のマルチプレックス分析:固形腫瘍患者からの予備データ」をご覧ください。
マルチプレックスdPCRアッセイを使用する変異の定量

 dPCR によるDNAターゲットのマルチプレックスは、体細胞変異の定量、対立遺伝子絶対定量、希少突然変異検出に有益です。試験により、マルチプレックスdPCRパネル が、セルフリーDNA (cfDNA)(13)と血漿 (14、15)中のがん遺伝子突然変異の定量分析に使用できることが示されています。

エビデンスから、シングルプレックス反応では最適なプライマーとプローブの濃度、最適な伸長温度を見つけることが有意義であることが示唆されます。また、2プレックス反応ではプライマーセットの互換性とレインの存在も確認する必要があります。その後、より複雑なマルチプレックス dPCR 反応における組み合わせに進むことができます。

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微生物検出のためのdPCRによるマルチプレックス

デジタルPCRによるマルチプレックスは、微生物種の検出によく使用されています。たとえば、マルチプレックスdPCRアッセイは、細菌性病原体、真菌性病原体、ウイルス性病原体、および関連する耐性遺伝子を迅速に検査できます(16、17、18、19、20)。報告されている検出感度は1 mLあたり50コピー単位と少量が検出でき、ある試験では血液中の細菌DNA検出のdPCRの感度は、qPCRの104倍と報告されています(21)。

別の公表文献では、自然環境におけるシアノバクテリア種を評価するために、2プレックスdPCRおよび2プレックスqPCRアッセイが開発されました。著者らは、qPCR は迅速かつ経済的であるものの、dPCRの方がより高い精度、正確さ、PCR阻害に対する抵抗性を持つことを明らかにしています(22)。

特に、ターゲットが少量なのに対し非ターゲットバックグラウンドDNAが大量に存在する環境サンプルでは、ターゲット間の阻害と競合は、マルチプレックスqPCRの大きな課題です。デジタルPCRマルチプレックスは、濃度に1000倍の差がある少なくとも2つのターゲットを正確に定量できることが示されており、このようなqPCRの限界に実行可能な解決策を提供します(22)。

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微生物検出のためのマルチプレックスdPCRに興味をお持ちになりましたか?
そして、ナノプレートdPCRを用いる微生物のDNAおよびRNAターゲットの正確かつ高感度な検出に関する科学ポスターをご覧ください。
バイオ医薬品におけるマルチプレックスdPCRアッセイ

バイオ医薬品業界では、dPCRマルチプレックスは、モノクローナル抗体(MAB)、ワクチン、細胞および遺伝子治療、バイオシミラーなどの製造および品質管理プロセスをサポートしています(23、24、25、26)。マルチプレックスdPCRアッセイ は、汚染物質の検出から力価の定量に至るまで、品質管理のさまざまな面に貢献できます。この方法では、複数の汚染物質を同時に検査することができるため、効率的な品質管理が可能です。 

dPCRによるマルチプレックスは、ハウスキーピング遺伝子と比較して、ターゲットの正確な相対定量が必要なアプリケーションや、開発中のベクターが複数の治療用遺伝子とサイレンシング遺伝子または遺伝子編集機能のいずれかを届ける場合に適しています。また、患者由来の材料を扱う研究者は、1つのサンプルからより多くの情報を得ることができるため、再サンプリングの必要がなく、ヒューマンエラーや反応あたりの試薬コストを削減できます。

group of dividing cells

マルチプレックスデジタルPCRで正確な定量を行うための留意点

  • 個々のアッセイを最適化:dPCRマルチプレックスの前に個々の反応を検証します(たとえば、ダイマーの発生をチェック)
  • プライマーとプローブを評価:プライマーとプローブの相互作用の可能性をチェック
  • 色素を慎重に選択:各アッセイの色素を慎重に選択。低コピーターゲットには明るい蛍光色素を持つ色素を選択
  • リンクしたターゲットをチェック:リンクしたターゲットまたは高次ターゲット相関関係の可能性を調査。たとえば、リンケージベースのアッセイを使用して、ターゲットのシス対トランスの配置や潜在的な構造再配列を測定
  • クロスハイブリダイゼーションを回避:可能であれば、プローブのミスマッチを避けるために、2つ以上のヌクレオチドの欠失または挿入を含むプローブとターゲットのバリエーションを設計
  • 光学的な漏れ込みを最小限に抑制:色素の蛍光が複数のチャンネルで拾われる場合に発生。可能であれば、共役色素が光学検出システムに一致していることを確認するか、解析ソフトウェアのシグナル処理パラメーターを調整
  • レインの存在を低減:レインとは、陰性パーティションより高いが陽性パーティションより低いパーティションのサブセットを表します。テンプレートの種類、確認、完全性、アッセイ特異性、反応中の阻害物質の存在を再評価することで、レインを減らすことができます。レインが定量に与える影響を避けるため、閾値の位置を変えて設定することを検討します。
dPCRアッセイ最適化のためのその他のヒント
当社のdPCRアッセイ開発ページをご覧になり、dPCR実験の設計、トラブルシューティング、最適化についてさらに洞察を深めてください。

マルチプレックスデジタルPCRの実施にご関心がある場合は、高度なマルチプレックス機能を備えたdPCR装置への投資をぜひご検討ください。マルチプレックスデジタルPCRアッセイ用に開発された多数のdPCRキットdPCRアッセイもあり、マルチプレックスの初心者と専門家の両方に数多くのメリットをもたらします。

  • デジタルPCR装置 – 利用可能なデジタルPCRシステムには多くの種類がありますが、中には他に比べ、マルチプレックスオプションが豊富なものもあります。たとえば、QIAcuity dPCRシステムは、最大5チャンネル(+1リファレンスチャンネル)でマルチプレックスが可能で、マルチプレックスし、時間と試薬を節約する最も簡単な方法を提供します:
チャンネル  励起(nm)  発光(nm)  蛍光色素例

グリーン

463 – 503 

518 – 548 

FAM 

イエロー 

514 – 535 

550 – 564 

HEX, VIC 

オレンジ 

543 – 565 

580 – 606 

TAMRA, ATTO 550 

レッド 

570 – 596 

611 – 653 

ROX, Texas Red 

クリムゾン 

590 – 640 

654 – 692 

Cy5 


  • 多目的dPCRキット – マルチプレックス反応用に開発されたdPCRキットの使用をご検討ください。QIAcuityプローブPCRキットには、QIAcuityナノプレート上で存在量の大きく異なる最大5つのターゲットを定量することができる特別なマスターミックスが含まれています。dPCRマルチプレックスにより、データの品質や妥当性に影響を与えることなく、時間、コスト、サンプル材料を節約できます。
  • コンタミネーションのない分析用のdPCRキット – バックグラウンドDNAの汚染を最小限に抑えるウルトラクリーンなマスターミックスを必要とするアプリケーションには、専用のキットがあります。QIAcuity UCPプローブPCRキットは、微生物分析や残留DNA検査などの品質管理アプリケーションに最適です。このキットは、シングルプレックスまたは5プレックスdPCRアッセイで、gDNAやcDNAの定量に高い特異性と精度を提供します。 
  • アプリケーション特異的dPCRマルチプレックスアッセイ – 特定のアプリケーションに応じてスループットを向上させ、コストを削減するのため、さまざまな色素(FAM、HEX、ROX、Atto 500、Cy5)を用いるdPCRアッセイを開発しました。このマルチプレックスdPCRアッセイにより、柔軟な実験設計と1回の反応で最大5つのターゲットのマルチプレックス分析が可能です。特定のdPCRアッセイは、CNV解析微生物検出細胞および遺伝子治療がん関連変異のLNA変異アッセイに利用できます。

マルチプレックスデジタルPCRの注目製品

dPCRマルチプレックスに関する出版物

科学界はdPCRマルチプレックスアッセイの利点を全面的に認めています。デジタルPCRマルチプレックスアプローチを使用して発表している研究者のリストをご覧ください。
アプリケーション  マルチプレックスdPCRの使用  参考文献 

ヒドロキニンの抗菌
活性と緑膿菌の細菌
耐性に寄与すると考えられる
遺伝子発現の
変化に関する研究。

排出
ポンプに関連する複数の遺伝子の
存在を確認するためのマルチプレックス逆転写デジタルPCR
(mRT-dPCR)

Rattanachak N, Weawsiangsang S, Jongjitvimol T,
Baldock RA, Jongjitwimol J. Hydroquinine possesses
antibacterial activity, and at half the MIC, induces
the overexpression of RND-type efflux pumps using
multiplex digital PCR in Pseudomonas aeruginosa.
Tropical Medicine and Infectious Diseases
. 2022;
7(8):156.

法医学的な
目的で、家庭で一般的に
見られる種の混合物の
定とデコンボリューション 
2つの
マルチプレックスでホモサピエンス、イヌ、ネコ、
ウシ、ブタ、魚、ニワトリ類を識別 
Ghemrawi M and McCord B. Development
of a nanoplate-based digital PCR assay for species
identification with mixture deconvolution. Forensic
Science International: Genetics Supplement Series
.
2022; 8:193–195. 
ベルギーの
流入下水で懸念されるSARS-CoV-2
変異体の検出 
流入下水中の4種類の懸念変異体(VOC)の
検出と
異なる
SARS-CoV-2 VOCのRNA定量を行うためのターゲットマルチプレックスdPCRアッセイ
Booagaerts T et al. Optimization and application
of a multiplex digital PCR assay for the detection
of SARS-COV-2 variants of concern in Belgian
influent wastewater. Viruses. 2022; 14(3):610. 
RNAからの
遺伝子融合の検出 
ASPYREテクノロジーの最初のRT-PCR
反応におけるマルチプレックスプライマーにより、3’遺伝子融合
ファミリー内の
37の潜在的なターゲットを同定
Gray ER at al. Ultra-sensitive molecular detection
of gene fusions from RNA using ASPYRE. 
BMC Medical Genomics. 2022; 15:215.

マルチプレックスdPCRに関するその他のリソース

その他の参考文献
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