プラスミドは通常、抗生物質などの選択試薬の存在下で増殖させたバクテリア培養液から調製します。調製したプラスミドDNAの収量と品質はプラスミド・コピー数、インサートのサイズ、宿主菌株、培養液量、培養液などの様々な要因に依存します。
プラスミド・コピー数
プラスミドのコピー数は、プラスミドが緩和な、あるいは厳格な制御下にあるかを決定する複製起点(例えばpMB1やpSC101)だけではなく、プラスミドやインサートのサイズにより、大幅に変化します (表 "
各種プラスミド/コスミドの複製起点およびコピー数")。pUCシリーズおよびその誘導体由来のいくつかのプラスミドでは、バクテリア細胞内で非常に高いコピー数を得らえる変異が導入されています。通常、pBR322をベースにしたプラスミド、あるいは多くのコスミドが低コピー数を維持しています。非常に大きなプラスミドでは、細胞あたりのコピー数が非常に低いことがよくあります。
注意: : プラスミド/コスミドのコピー数はクローニングしたインサートにも影響されます。例えば、高コピーpUCプラスミドは、非常に大きなDNAフラグメントなどを挿入した際に、中コピー数プラスミドのような挙動をとり、その結果、予想より低いDNA収量しか得られないことがあります。
プラスミド
pUC vectors |
pMB1* |
500~700 |
高コピー |
| pBluescript vectors |
ColE1 |
300~500 |
高コピー |
| pGEM vectors |
pMB1* |
300~400 |
高コピー |
| pTZ vectors |
pMB1* |
>1000 |
高コピー |
| pBR322 and derivatives |
pMB1* |
15~20 |
低コピー |
| pACYC and derivatives |
p15A |
10~12 |
低コピー |
| pSC101 and derivatives |
pSC101 |
~5 |
最も低コピー |
Cosmids
SuperCos |
pMB1 |
10~20 |
低コピー |
| pWE15 |
ColE1 |
10~20 |
Low copy |
コスミド・コピー数
QIAGEN Plasmid Kit はまたコスミドDNAの精製にも最適です。コスミドのサイズは比較的大きく、複製時間も遅いために、コスミドは通常低いあるいは非常に低いコピー数でバクテリア細胞中に存在しています (表 "
各種プラスミド/コスミドの複製起点およびコピー数")。プラスミド同様コスミドは、複製起点、サイズ、インサートのサイズによりコピー数が変動します。QIAGEN-tipを使用する際、コスミドは低いあるいは非常に低いコピー数のプラスミドとして取り扱います。非常に低いコピー数のコスミドから高い収量を得るためには、QIAGEN-tipで使用する通常の培養液量よりも多量の培養液が必要になります。操作を数箇所変更することにより、最適な結果が得られます。詳細なプロトコールはQIAGEN Plasmid Purification Handbookをご覧ください。QIAGEN-tipで調製したコスミドDNAは、シークエンシング (マニュアル、自動) を含むすべてのアプリケーションに最適です。QIAGEN-tipを用いたP1およびBAC DNAの精製については弊社テクニカルサポートにお問い合わせください。
宿主菌株
プラスミド増殖に用いるE. coli株は精製DNAの品質にかなりの影響を与えることがありますが、ほとんどのE. coli株がプラスミドDNA分離用に使用できます。DH1, DH5α, C600のような宿主菌株では、QIAGENプロトコールを用いて高品質のDNAを精製できます。増殖速度の遅いXL1-Blue株でもシークエンシングで最高の結果が得られる高品質DNAを分離できます。HB101株およびTG1やJM100シリーズのような誘導体に含まれる大量の炭水化物は、完全に除去されていないと、溶解中に遊離し、酵素活性を阻害することがあります。さらにJM101, JM110, HB101のような大腸菌株は高レベルのエンドヌクレアーゼ活性をもち、XL1-Blue, DH1, DH5α, and C600などの菌株から調製するよりも品質の低いDNAしか得られません。宿主株のメチル化や増殖様態もまたプラスミド精製に影響します。QIAGENプラスミド精製を行った後、精製したDNAの品質が予想通りない場合、宿主菌株を変更する必要があります。TG1やTop10F'のような菌株でも改善されない場合は、清澄化ライセート調製に使用する培養液量を減らすか、同じ培養液量でBuffers P1, P2、P3の量を2倍に増やし、最適な溶解条件になるように溶解バッファーの量とバイオマスの比率を変更することをお薦めします。
インキュベーション
プラスミド調製用のバクテリア培養液は、必ず選択培地に新しく画線植菌して採取した単一コロニーを培養したものを用います。グリセロール保存、穿刺培養、液体培養液からの直接培養はプラスミドの消失が起きることがあります。長期間保存したプレートからの接種もまた、プラスミドの消失や突然変異を起こすことがあります。必要なクローンをグリセロール保存液から適切な選択薬剤を含む新鮮な培地に画線植菌して、抗生物質に耐性のクローンからなる単一コロニーを拾います。この操作を繰り返して、抗生物質耐性クローンの単一コロニーを確実に採取します。単一コロニーを2~10 mlのLB (表 "
Luria Bertani培養液の成分" ) 選択培養液 (適切な抗生物質を含む) に接種し、約8時間増殖させます (対数増殖)。培養液量の最低4倍以上の容量を持つ容器を用いて、スタート培養液を選択培養液で500~1000倍に希釈し、飽和状態になるまで激しく振盪培養 (約300 rpm) を (12~16時間) 行ないます。日中にスタート培養液を調製し、次の日の朝まで一晩かけて大量培養を行なうと便利です。
抗生物質
抗生物質による選択は増殖操作のすべての段階で使用します。今日使用されている多くのプラスミドは、選択薬剤の不在の下では細胞分裂中に同等にに分割を確保するpar locusを保持していません。プラスミドを持たない娘細胞は、プラスミドを含む細胞よりも迅速に複製し、増殖します。選択試薬の安定性も考慮に入れなければなりません。例えばアンピシリン耐性には、プラスミドにリンクした
bla 遺伝子によりコードされ、アンピシリンを加水分解するβ-lactamaseが仲介します。このため培養液中のアンピシリン・レベルは常に枯渇します。この現象は、アンピシリンが加水分解されると培養コロニーの近隣で“サテライト・コロニー”が現れるアンピシリン・プレートで観察されます。抗生物質の効果を確実にするために、新しく調製したプレートから培養液を接種することが重要です。アンピシリンはまた温度に対して感受性が高く、1回使用するぶんだけ分注して冷凍保存します。下の表は通常用いる抗生物質の濃度を示しています。
Ampicillin
(sodium salt) |
50 mg/ml in water |
–20°C |
100 µg/ml (1/500) |
| Chloramphenicol |
34 mg/ml in ethanol |
–20°C |
170 µg/ml (1/200) |
| Kanamycin |
10 mg/ml in water |
–20°C |
50 µg/ml (1/200) |
| Streptomycin |
10 mg/ml in water |
–20°C |
50 µg/ml (1/200) |
| Tetracycline HCl |
5 mg/ml in ethanol |
–20°C |
50 µg/ml (1/100) |
培養液
QIAGENプロトコールは、スタンダードのLB (Luria Bertani)培養液 (表 "
Luria Bertani 培養液の成分") で培養し、培養液1 mlあたり約3~4 x 10
9細胞の細胞密度を持つ細胞用に至適化されています。対数増殖期から静止期に移る12~16時間後に培養液を回収することをお薦めします (図 "
LB培養液でのE. coli 細胞の増殖曲線")。この時点でプラスミドDNAのRNAに対する割合は対数増殖期よりも高くなります。また、静止期の後半で生じるような時間がたちすぎた培養液によるDNAの分解もまだ生じていません。各プロトコールの最初に推奨されている最大培養液量に注意してください。
最近のバクテリア細胞株には非常に高い細胞密度まで増殖するものがいくつかあります。培養液の細胞密度を測定し、必要に応じて適宜培養液量を減らす、あるいは溶解バッファーP1, P2、P3の容量を増加するのが最適な方法です。バイオマス量の割合が溶解バッファーに比べて高いと、溶解条件が悪くなり、DNA収量と純度が低下します。低コピー・ベクターを使用する場合、アルカリ溶解の効率とDNA収量を増加するために溶解バッファー量を増加すると改善されることがあります。バッファー P1、P2、および P3を別途調製する際はバッファーの成分がハンドブックに掲載されています。あるいはバッファーのみを別途ご購入いただけます。
高コピー・プラスミドで頻繁に使われるTB (terrific broth)あるいは2x YTのような富栄養培地を使用することはお薦めしません。TBあるいは2x YTは2~5倍量のバクテリアを産生する利点はありますが、必ずしも高収量あるいは高品質のDNAが得られるわけではありません。
富栄養培地を使用する際は、推奨する細胞バイオマスにマッチするように培養液 (使用するQIAGEN-tipの対応する) を減らします。培養液量が多すぎるとアルカリ溶解は効率的でなく、その結果予想されるDNA収量より少なくなります。さらに、ライセートの粘性が非常に高いために、激しい混和を必要とし、その結果ゲノムDNAの切断とプラスミドの混入が生じます。
| Tryptone |
10 g |
| Yeast extract |
5 g |
| NaCl |
10 g |
細胞密度の測定
細胞密度の光学測定は異なる分光光度計により変動します。バクテリア培養液の光学密度は、サンプルと検出器の間の距離により変動する光散乱を測定します。
OD
600測定値を1mlあたりの細胞数に正確に換算するためには、分光光度計の個々の較正が必要です。これは、抗生物質を添加していないLB寒天培地上に培養液の連続希釈系列をプレーティングすることにより可能です。カウントしたコロニー数は1mlあたりの細胞数へ換算するのに使用され、この値がその連続希釈液のOD
600測定値に対応します。
ペレット湿重量
細胞密度の分光光度計による測定、あるいは分光光度計の較正が不可能な場合、細胞量の定量は湿重量により行えます。通常、細胞密度が3–4 x 10
9/ml の
E. coli 一晩培養液1リッターは、約3 g/リッターのペレット湿重量に相当します。
クロラムフェニコール増幅
現在使用されているプラスミドのコピー数は非常に高いので、収量を高めるためにクロラムフェニコール存在下での選択的な増殖は必要ありません。しかしpMB1あるいはColE1の複製起点を含む低コピー数のプラスミドを調製する場合、コピー数を増やすためにクロラムフェニコール (170 mg/liter) を添加すると収量が改良されます。クロラムフェニコール存在下で増幅した低コピープラスミドを含むバクテリア培養液では、QIAGEN-tip用の適切な培養液量を決定する際に、高コピープラスミドと同じように取り扱ってください。
In vitro 転写
QIAGEN-tipと推奨するプロトコールを用いて調製したプラスミドDNAにはタンパク質やその他の夾雑物が検出されません。QIAGEN,、QIAfilter、EndoFree Plasmid Kitを用いて精製したDNAを用いてin vitro転写実験で優れた結果が得られます。高レベルのRNase Aを調製の始めに使用しますが、ドデシル硫酸カリウム沈殿と続くBuffer QCを用いた洗浄ステップで効率的に除去されます。in vitro転写用にDNAを精製する際、実験手順からRNase Aを省略することは可能ですが、必須ではありません。この場合、洗浄バッファー(QC)を増加することをお薦めします (例;QIAGEN-tip 100のMidi調製に関しては、2 x 10 mlの代わりに少なくとも6 x 10 mlのBuffer QCを使用します)。