PCR プロトコールおよびアプリケーション

最高の結果を得るための総合的なPCR ガイド
このセクションは総合的なPCR のベンチガイドです。最高のPCR 結果を得るためのガイドラインと提案を掲載しています。
PCR ガイドライン
PCR プライマーデザイン
PCR 条件
Degenerate primer のデザインおよび使用のガイドライン
長いPCR 産物の増幅
PCR に使用する酵素
PCR サイクル
PCR で使われる用語
リアルタイムPCR
SYBR Green PCR とは?
Probe を用いたPCR とは?
PCR 定量
PCR コントロール
PCR のタイプ
RT-PCR のガイドライン
2 ステップおよび1 ステップRT-PCR
RT プライマーの選択
2 ステップRT-PCR の逆転写反応条件
1 ステップRT-PCR の逆転写反応条件
RT-PCR 用プライマーデザイン
RT-PCR に使用する酵素
マルチプレックスPCR およびRT-PCR
全トランスクリプトーム増幅 (WTA)
DNA コンタミ
References

PCR ガイドライン

1985 年にK. Mullis と共同研究者により発見されたPCR (polymerase chain reaction) は分子生物学および分子医学に革命をもたらしました。バイオマーカーの発見、遺伝子制御、がん研究など主要な研究分野において、現在もPCR テクノロジーの改良が常に要求されています。その中には、スループットの増加、より高いアッセイ感度、信頼性の高いデータ解析などが含まれます。しかしながら、アッセイ系の確立や評価、データの再現性、結果を得るまでの所要時間など大きな問題に未だ直面しています。

PCR 増幅はルーチン的に行なわれており、プロトコールが開発されているものの、特異的な増幅産物を獲得がうまく行かない場合もよくあることや、PCR 実験におけるテクニックの難しさに研究者たちはいまだに遭遇します。スメア、低収量および非特異的増幅のような複数の異なる課題も存在しますが、PCR の失敗および不十分な結果になる2 つの主な理由は、反応の特異性とテンプレートの二次構造です。

PCR は熱力学的なプロセスと酵素反応で構成されています。リアルタイムPCR を成功させるためには、最適な条件下での増幅と検出が必須条件であり、各反応の成分が実験結果に影響を及ぼします。特異性の高いPCR にはアニーリングステップが非常に重要です。プライマーがテンプレートに高い特異性でアニーリングすると、特異性の高いPCR 産物が高収量で得られ、増幅反応の感度が増加します。しかし、反応液中のプライマー濃度が高いため、プライマーはミスマッチを含む非相補的な配列にもハイブリダイズします。プライマーが低い特異性でテンプレートにア二ーリングすると、非特異的なPCR 産物の増幅やプライマーダイマーが生じます。これらのアーティファクトと目的のPCR 産物が増幅反応において競合すると、特異的産物の収量が減少し、その結果、リアルタイム反応の感度および直線性が低下します。特にSYBR Green I を検出に用いた際には、PCR の特異性が低いと定量PCR に顕著な影響が現れます。SYBR Green I はあらゆるニ本鎖DNA 配列に結合するために、プライマーダイマーや他の非特異的なPCR 産物によっても蛍光シグナルが発生します。その結果、アッセイ全体の感度が低下し、目的の転写物の正確な定量もできなくなります。PCR の高い特異性に重要な役割を果たすファクターとして、プライマーデザインや使用する反応試薬があります。

ページトップへ

PCR プライマーデザイン

PCR の特異性および効率を最大にするためには、最適なプライマー配列と適切なプライマー濃度が重要です。表 プライマーのデザインおよび使用法に関するガイドライン に標準的なPCR、マルチプレックスPCR、1 ステップRT-PCR に使用するプライマーデザインの概要が記載されています。モル濃度の変換は表 PCR プライマーのモル濃度変換 をご参照ください。

プライマーのデザインおよび使用法に関するガイドライン
     スタンダードPCR  マルチプレックスPCR 1ステップRT-PCR
 長さ  18~30 nt  21~30 nt  18~30 nt
 GC 含有量  40~60%  40~60%  40~60%
 Tm 値について  全てのプライマーペアのTm 値は類似  全てのプライマーペアのTm 値は類似
60~88℃のTm 値で最適な結果が得られる
 全てのプライマーペアのTm 値は類似
Tm 値は逆転写反応温度より低くならないようにする(例;50℃)
 最適なアニーリング温度の設定  Tm 計算値より5℃低い温度  Tm 計算値より5~8℃低い温度(Tm 値が68℃以上の場合)または Tm 計算値より3~6℃低い温度(Tm 値が60~67℃の場合)  Tm 計算値より5℃低い温度
 設定部位  –  –  gDNA の検出を回避するため:あるエキソンの3' 末端と隣接するエキソンの5' 末端境界領域にプライマーをハイブリダイズさせる
あるいは、少なくとも一つのイントロンを含むフランキング領域 (非翻訳領域) にプライマーをハイブリダイズさせる
mRNA 配列しかわからない場合には、300~400 bp 離したところにプライマーのアニーリング部位を選ぶ
 A260 での濃度  20~30 µg  20~30 µg 20~30 µg

PCR プライマーのモル濃度
プライマーの長さ  pmol/µg 20 pmol
 18mer  168  119 ng
 20mer  152  132 ng
 25mer  121  165 ng
 30mer  101  198 ng
 

PCR プライマーをデザインするときは、全てのタイプのPCR において共通で以下のポイントを考慮する必要があります。

  • Tm calculation: 2°C x (A+T) + 4°C x (G+C) 
  • プライマーペアの3' 末端における2~3 塩基の相補性を回避
  • プライマーとテンプレートの3' 末端間のミスマッチを回避
  • プライマーの3' 末端で3 個あるいはそれ以上C が連続するのを回避
  • プライマー内あるいはプライマーペア間での相補性を回避
  • 3' 末端ではT を回避
  • プライマー配列が目的のテンプレート配列にとって特異的であることを確認
  • 各プライマーの濃度が0.1~1.0 µM であるものを使用する。多くのアプリケーションで、プライマーの濃度が0.2 µM であれば十分

凍結乾燥されたプライマーはストック溶液濃度にするために少量の蒸留水またはTE で溶解します。10 pmol/µl の希釈溶液を凍結・融解の繰り返しを回避するため少量ずつ分注します。プライマー溶液は–20℃で保存してください。プライマー品質は変性ポリアクリルアミドゲルで、シングルバンドがあらわれるかどうかで確認できます。

ページトップへ

PCR 条件

PCR バッファー中のプライマーおよびMg2+ 濃度および反応のアニーリング温度は、効率的なPCR のためにプライマーごとに至適化する必要があります。また、DNA ポリメラーゼの安定化および処理能力、ハイブリダイゼーションの厳密性を促進する添加物によって、非特異的なプライマー・テンプレートの相互作用を減らし、PCR 効率を向上することができます(1)。たとえば、ゲノムDNA 中の1 コピー遺伝子、または感染した生物から分離されたゲノムDNA 中にある病原性ウイルスDNA 配列といった、特に珍しいテンプレートを増幅するために、高純度の試薬を使用することがPCR の成功に不可欠です。
PCR 反応の成功をモニタリングするため、コントロール反応を含めることは重要です。ポジティブコントロールは、ターゲット配列の確実な増幅を可能にするPCR 条件を確認するために、可能な限り含むべきです。感度がとても高く、ターゲットテンプレートが数コピーのみを必要とするPCR では、使用した試薬がテンプレートDNA でコンタミしていないことを確認するため、テンプレートDNA を含まない、ネガティブコントロール反応を常に含んでいなくてはなりません。

PCR のセットアップは、PCR 産物による試薬の汚染を防ぐために、解析用エリアとは離れた場所で行なってください。同様に、PCR 産物の解析に用いるピペットは、セットアップの際に使用しないでください。

プライマーのアニーリング特異性およびPCR バッファー

PCR ではプライマーがテンプレート内の相補的なDNA 配列にアニーリングします。増幅を成功させるには、プライマーのアニーリングが特異的でなければなりません。短いアニーリング時間で効率的なハイブリダイゼーションを実現するためにプライマー濃度を上げると、非相補的な配列にもアニーリングする可能性が高くなります。非特異的なアニーリングから得られた産物の増幅は特異的な増幅と競合し、特異的な増幅産物の収量が大幅に低下します。

プライマー分子の非特異的アニーリングに対する特異的アニーリングの割合を高く保持することがPCR 成功の大きな鍵となります。アニーリングは、主にPCR バッファーの成分(特に陽イオン)およびアニーリング温度に大きく影響されます。陽イオンの最適な組み合わせにより、広範なアニーリング温度でプライマーのアニーリングに対して高い特異性を保持できます。この特性により、プライマーとテンプレートの組み合わせごとにアニーリング温度の至適化が不要になり、プライマーのアニーリング温度が異なる、実際によくあるPCR システムにも使用できます。

アニーリング温度

最適なプライマーのアニーリング温度は塩基成分(A、T、G、C ヌクレオチドの割合)、プライマー濃度、イオン性の反応溶液環境に依存しています。

マグネシウムイオン濃度

マグネシウムイオン(Mg2+)はDNA ポリメラーゼが酵素活性を持つために必要な補因子です。Mg2+ は増幅反応液に含まれるDNA、プライマー、核酸に結合します。Mg2+ 濃度は一般的にdNTPs やプライマー濃度より高く、異なるテンプレートやプライマー濃度でいくつかの至適化実験が必要になることがあります。最適な濃度を超えたMg2+ は非特異的な結合を安定化し、特異的なPCR 産物の収量低下およびスメアな増幅産物や他のPCR アーティファクトが観察される場合があります。

PCR 添加物

PCR 結果を改善するいくつかのPCR 添加物が現在入手可能です。これらの試薬は、DNA の二次構造(例;GC リッチ領域や長い増幅産物)の解離、テンプレートの融解温度の低下、酵素のアクセスの促進、DNA ポリメラーゼの安定化、あるいはポリメラーゼのプラスチック容器への付着防止を促すといわれています。

よく使われるPCR 添加物にはDMSO(dimethyl sulfoxide)、BSA(ウシ血清アルブミン)、グリセロールがあります。

ページトップへ

Degenerate primer のデザインおよび使用のガイドライン

PCR プライマーの配列は、ターゲットの正確な塩基配列が未知の場合、アミノ酸配列からしばしば推定できます。しかし、遺伝子記号の縮合のため、推定される配列は一カ所もしくはそれ以上の位置で変化する可能性があります。このような場合の一般的な解決法としては、様々な位置で異なる塩基を持つ、類似したプライマーの混合物であるdegenerate primer が用いられます。degenerate primer を使用することで、degenerate primer 混合物の限られた数のプライマー分子によるテンプレートへの相補や、プライマー配列の融解温度(Tm)が著しく多様になったり、プライマー配列がその他のプライマーに相補的になったりするなどの事象により、PCR アッセイの最適化が困難になる場合があります。これらの理由により増幅条件は、非特異的プライマ-–テンプレートまたはプライマー同士のインタラクションを最小限にすることが要求されます。以下のガイダンスはdegenerate primer をデザインまたは使用する際のガイドラインです。

プライマー配列:

  • 3' 末端に3 ヌクレオチドの縮合を避ける; 例:Met またはTrp をエンコードする3 塩基を3' 末端側に使用する
  • プライマー–テンプレートの結合効果を促進するため、5' 末端側のプライマーとテンプレート間のミスマッチがあっても受け入れることで、縮合を減らす(3' 末端側では避けること)
  • 4 種類以下のdegenerate primer になるようにデザインすること

プライマー濃度:

  • プライマー濃度は0.2 µM から始める
  • PCR 効果がうまく得られない場合、満足する結果が得られるまで、0.25 µM ずつプライマー濃度を増やす

ページトップへ

長いPCR 産物の増幅

3~4 kb より長いPCR 産物の増幅は、非特異的なプライマーのアニーリング、不適切なサイクリング条件およびテンプレートDNA の二次構造によりしばしばうまくいかないことがあります。サイクリング条件、プライマーおよびdNTP コンタミ、さらに特別な添加物などの幅広い要因により、時間のかかる至適化がたびたび必要となります。

サイクリング条件の至適化

通常、一般的なPCR において脱プリン化は問題になりませんが、長いPCR フラグメントの増幅には明らかな影響が見られます。これは長いテンプレートが、短いテンプレートよりも比例的に脱プリン化されているためです。このため、30 秒または1 分の変性ステップの場合に比べ、たった10 秒の変性ステップでより高い収量が得られ、PCR の失敗となるバックグラウンドのスメアがなくなります(図 サイクル条件の影響)。広範な脱プリン化はエクステンションステップの最中にもみられます。このことから、72℃ではなく、より低い68℃でのエクステンションを行なうことで、より長い増幅産物の収量が劇的に増加します。

長いPCR 産物を得るための理想的なサイクリング条件は、表 より長いPCR 産物の増幅のためのサイクリング条件 に記載されています。

より長いPCR 産物の増幅のためのサイクリング条件
Step  Time/cycles Temperature
 Initial activation step  2 min  95°C
 3-step cycling      
 Denaturation  10 s  94°C
 Annealing  1 min  50–68°C*
 Extension  1 min/kb  
 Number of cycles  40 cycles  68°C
 End of PCR cycling  Indefinite  4°C
* 5°C below Tm of primers.

PCR 添加物の至適化

GC リッチなテンプレートによってしばしばおこるヘアピンループのような二次構造は、長いPCR 産物の効率的な増幅に影響します。この問題は低い温度での二次構造の解離を促し、DNA 融解挙動を変える試薬の添加によって解決することができます。

3'–5' エキソヌクレアーゼ活性の至適化

Taq DNA ポリメラーゼはテンプレートを複製する際に、プルーフリーディングDNA ポリメラーゼと呼ばれるものに比べ、より多くの複製エラーをPCR 産物中にもたらします。一度合成中にミスマッチが起こると、Taq DNA ポリメラーゼは変異および不完全なPCR 産物をもたらす、ミスマッチしている鎖をそのまま伸長もしくはテンプレート鎖の欠失を起こします。短いPCR 産物の増幅の時には、一般的にPCR 効率に影響を与えませんが、長いPCR 産物の増幅の場合はDNA 合成中にミスマッチにより顕著に減少する可能性があります。

プルーフリーディングDNA ポリメラーゼは、塩基対のミスマッチを除去する特有の3'~5' エキソヌクレアーゼ活性を含みます。PCR ミックスに少量のプルーフリーディングDNA ポリメラーゼを加えることにより長いPCR 産物の効果的な増幅を劇的に促進します。

ページトップへ

PCR に使用する酵素

特性の異なるいくつかの耐熱性DNA ポリメラーゼがPCR 用に市販されています(表 PCR で使用されるDNA ポリメラーゼ)。

eubacterium 属のThermus aquaticus から分離されたTaq DNA ポリメラーゼは、標準的なエンドポイントPCR に使用される最も一般的な酵素です。この酵素は適応度が高いため、様々なPCR アッセイに使用できます。しかし室温で活性があるため、非特異的な増幅を回避するために氷上で反応液をセットアップしなければなりません。

ホットスタート、シングルセル、マルチプレックスPCR のような様々なダウンストリームアプリケーションの必要性に応じて、オリジナルの“PCR ポリメラーゼ” — Taq DNA ポリメラーゼ — を修飾した多数の酵素が入手可能です。Taq DNA ポリメラーゼやその誘導体で塩基の取り込み誤り率は平均10,000 ヌクレオチドに対し1 個なので、耐熱性DNA ポリメラーゼfamily B と比べて正確性が劣っています。しかし、適応度が高いためTaq DNA ポリメラーゼは現在もルーチンで汎用されており、厳密なホットスタート特性を付与することによって本酵素は困難なPCR アプリケーションにも適用可能です。

PCR で使用されるDNA ポリメラーゼ
酵素の特性  DNAポリメラーゼfamily A DNAポリメラーゼfamily B
 入手可能な酵素  Taq DNA ポリメラーゼ  プルーフリーディング酵素
 5'–3' エキソヌクレアーゼ活性  +  –
 3'–5' エキソヌクレアーゼ活性  –  +
 伸長速度(ヌクレオチド/秒)  ~150  ~25
 誤り率 (per bp/per cycle)  1 in 103/104  1 in 105/106
 PCR アプリケーション  スタンダード、ホットスタート、逆転写、リアルタイム  ハイフィデリティ、クローニング、部位特異的突然変異
 A-addition  +  時々
参考文献2 より引用

ホットスタートPCR 用ポリメラーゼ

増幅反応液を低温でセットアップする際、プライマー同士が非特異的に結合してプライマーダイマーを形成します。増幅サイクル中にこのプライマーダイマーが伸長して非特異的な産物を増幅するため、特異的増幅産物の収量が低下します。困難なPCR アプリケーションで特異的な結果を得るには、ホットスタートPCR を使用します。ホットスタートPCR 用ポリメラーゼとして機能させるために、抗体による修飾で低温でのTaq DNA ポリメラーゼ活性を阻害しますが、ポリメラーゼ分子内のアミノ酸間で共有結合を形成する化学修飾の方が効果的です。化学修飾は、最初の熱活性化ステップで共有結合が解裂するまで完全にポリメラーゼ活性を抑制します。一方、抗体によるホットスタート法は抗体が比較的弱い非共有結合力によりポリメラーゼと結合しているため、ポリメラーゼ分子の活性部位のいくつかはブロックされていません。その結果、非特異的なプライマーの伸長産物がPCR 中に増幅することがあります。アガロースゲル電気泳動の結果、これらの非特異的産物はスメアあるいは目的の増幅産物とは異なるサイズのフラグメントとして観察されます。

ハイフィデリティDNA ポリメラーゼ

Taq DNA ポリメラーゼのような標準的なDNAポリメラーゼと異なり、ハイフィデリティPCR酵素は不正確な塩基の取り込みを回避するために3'–5' エキソヌクレアーゼ活性を持っています。ハイフィデリティPCR 酵素は、クローニング、シークエンシング、部位特異的突然変異誘発法のような低い取り込み誤り率を必要とするアプリケーションに最適です。しかしこの3'–5' エキソヌクレアーゼ活性によりPCR の初期にプライマーを分解することがあります。短くなったプライマーが原因でおこる非特異的なプライミングのためゲル上でスメアな増幅産物が認められたり、微量のテンプレートを使用した時など目的産物が増幅できないことがあります。プルーフリーディング機能があるためにハイフィデリティ酵素は他のDNA ポリメラーゼに比べて反応が遅いことも注意しなければなりません。さらに直接UA/TA クローニングを行なうのに必要なA 付加機能が非常に低いため、ライゲーションやトランスフォーメーション効率の低い平滑末端クローニングが必要です。

ページトップへ

PCR サイクル

理論上、各PCR サイクルで、反応中のアンプリコンの量は2倍 ずつ増えていきます。そのため、10 サイクルで1000 倍まで増えることになります。

各PCR サイクルはテンプレートの変性、プライマーのアニーリングおよびエクステンションで構成されます。アニーリングおよびエクステンション温度が類似している場合、これらのステップが同時に起こることとなります。サイクルの各ステージにおいては、各テンプレートおよびプライマーペアの組み合わせに関係する温度と時間を至適化を必ず行なわなければなりません。

必要なサイクル数(表 PCR サイクル数を決めるためのガイドライン)が完了した後、増幅産物はダウンストリームアプリケーションで解析もしくは使用されます。

PCR サイクル数を決めるためのガイドライン
1 kb DNA フラグメント量  E. coli DNA 量  ヒトDNA 量  シングルコピーターゲット数 PCR サイクル数
 0.0.1–0.11 fg  0.05–0.56 pg  36–360 pg  10–100  40–45
 0.11–1.1 fg  0.56–5.56 pg  0.36–3.6 ng  100–1000  35–40
 1.1–5.5 fg  5.56–278 pg  3.6–179 ng  1 x 103–5 x 104  30–35
 >5.5 fg  >278 pg  >179 ng  >5 x 104  25–35
 

ページトップへ

PCR で使われる用語

データ解析で使用する基本用語は下記で説明します。データ解析に関する詳細は、ご利用のリアルタイムPCR 装置のメーカーが推奨する方法に従ってください。リニアスケールを使用する場合、データは蛍光強度を縦軸に、サイクル数を横軸に取りプロットされており、S 字型の増幅プロットとして表示されます(図 典型的な増幅曲線)。

核酸ターゲットのレベルをリアルタイムPCR で定量する前に、生データを解析し、ベースラインとthreshold(閾値)の設定を行なわなければなりません。一つの実験で異なるプローブを使用する場合(例;いくつかの遺伝子を並行して解析する、あるいは異なるレポーター色素を有するプローブを用いる場合)、ベースラインとthreshold の設定をプローブごとに調節しなければなりません。

さらにSYBR Green I を用いて一回の実験で異なるPCR 産物の解析を行なう場合には、アッセイごとにベースラインとthreshold の調節が必要です。

ベースライン: ベースラインは初期のサイクルにおけるノイズレベルであり、通常、増幅産物による蛍光の増加が検出されない3 サイクルと15 サイクルの間で設定されます。ベースラインを設定するサイクル数は変更でき、テンプレート使用量が多かったり、ターゲット遺伝子の発現量が高い場合にはサイクル数を減らさなければなりません(図 正確な定量に重要な正確なベースラインとthresholdの設定)。ベースラインを設定するためには、増幅プロットがリニアスケールになっている蛍光データを参照します。増幅曲線のシグナルが立ち上がり始めたサイクル数より1 サイクル低い値をベースライン範囲の最大値に設定します。ベースラインはターゲットごとにセットする必要があります。初期サイクル中に検出された平均蛍光値を増幅産物で得られた蛍光値から差し引きます。各種リアルタイムPCR 装置に搭載ソフトの最近のバージョンは、個々のサンプルに対して最適なベースラインを自動的にセットできます。

バックグランド: これは例えば、蛍光色素の非効率的なクエンチングあるいはSYBR Green I を用いた際に大量のニ本鎖DNA テンプレート存在による非特異的な蛍光を反映しています。シグナルのバックグランドはリアルタイムPCR 装置に搭載されているソフトウェアのアルゴリズムにより補正計算されます。

レポーターシグナル: SYBR Green I あるいは配列特異的な蛍光標識プローブによりリアルタイムPCR の際に発生する蛍光シグナル。

補正されたレポーターシグナル(Rn): サイクルごとに測定したパッシブリファレンス蛍光シグナルで割ったレポーター蛍光シグナルの値。

パッシブリファレンス: リアルタイムPCR 装置によっては蛍光シグナルの補正のために蛍光色素ROX を内部標準として使用します。これにより不正確なピペッティングやウェルの位置、蛍光のゆらぎによるウェル間の変動を補正できます。

Threshold: Threshold はベースラインより上であるが、増幅曲線の飽和を示すプラトー部分よりも低い値に設定します。PCR の検出可能な対数直線範囲を表わす増幅曲線の直線内に位置しなければなりません。Threshold を設定する場合には、PCR の対数直線領域の判断が簡単にできるように、増幅曲線画面を対数値表示にしてthreshold を設定するべきです。リアルタイムPCR で複数のターゲットを一度に解析した場合、ターゲットごとにthreshold を設定しなくてはなりません。

Threshold cycle(CT)あるいはcrossing point(Cp): これは増幅曲線がthreshold と交差する点(すなわち蛍光の有意な増加が観察されるサイクル数)です。このCT値を使って、スタートテンプレート量の計算を行なえます。

ΔCT: ΔCT 値はターゲット遺伝子のCT値とハウスキーピング遺伝子のような内因性リファレンス遺伝子のCT 値との差を表わし、使用したテンプレート量の補正に使用します:

  • ΔCT = CT (ターゲット遺伝子) – CT (内因性リファレンス遺伝子)
  • ΔΔCT 値: ΔΔCT 値は、目的サンプル(例;刺激した細胞)の平均ΔCT値とリファレンスサンプル(例;刺激していない細胞)の平均ΔCT値の差を示します。リファレンスサンプル(標準サンプル)は、キャリブレーターサンプルとも呼ばれ、相対定量法では他のサンプルの値を補正します:
  • ΔΔCT = 平均ΔCT 値(目的のサンプル)– 平均ΔCT 値(リファレンスサンプル)

内因性リファレンス遺伝子: これはハウスキーピング遺伝子(3)のように発現レベルがサンプル間で差異のない遺伝子でなければなりません。ターゲット遺伝子のCT 値と内因性リファレンス遺伝子のCT 値の比較によリ、添加したRNA あるいはcDNA 量に対してターゲット遺伝子の発現レベルを補正できます(上記ΔCT 値のセクション参照)。反応液中の正確なテンプレート量は決定されません。内因性リファレンス遺伝子を用いることにより、RNA分解の可能性あるいはRNA サンプル中の阻害物質の存在そしてRNA 量、逆転写反応効率、核酸回収率、サンプル取り扱いによるばらつきを補正できます。適切な遺伝子を選択するため、最適なリファレンスと実験のセットアップに対応するアルゴリズムが開発されています(4)。

インターナルコントロール: これはターゲット配列と同一反応液内で増幅され、異なるプローブにより検出(例;duplex PCR)されるコントロール配列です。インターナルコントロールは、ターゲット配列が検出されない場合に増幅による失敗ではないことを判定するために使用します。

キャリブレーターサンプル: これは相対定量に使用するリファレンスサンプルで、ある遺伝子の相対発現レベルを決定するために、例えばある細胞株または組織から精製したRNA をその他のすべてのサンプルと比較します。どのサンプルでもキャリブレーターサンプルにもなりますが、通常はコントロールサンプルを使います(例;未処理のサンプルあるいは実験で0 時点のサンプル)。

ポジティブコントロール: これは既知量のテンプレートを用いたコントロール反応です。ポジティブコントロールは通常、プライマーセットあるいはプライマー・プローブセットが機能するかをチェックするために使用します。

No template control (NTC): テンプレート以外の増幅反応に必要なすべての成分を含むコントロール反応液です。NTC によりコンタミを検出することができます。

逆転写反応がないコントロール(No RT control): RNA 調製液は残留ゲノムDNA を含むことがあり、RNA のみを検出・増幅するようにアッセイがデザインされていない場合は、リアルタイムRT-PCR でこの残留DNA が検出されることがあります。逆転写酵素を添加しないNo RT control 反応を実施することでDNA のコンタミネーションの有無を確認できます。

スタンダード: これは検量線を作製するために用いる既知の濃度やコピー数を持つサンプルです。

検量線: 検量線を作製するため、異なる希釈率におけるスタンダードサンプルのCT 値(増幅曲線とthreshold が交差したときのサイクル数)をそれぞれのスタンダードサンプルの添加量(対数値)に対してプロットします。通常、少なくとも5 種類の希釈系列を用いて検量線を作製します。各検量線では傾きが–3.3~–3.8 の間にあるかどうかで妥当性をチェックします。スタンダードサンプルは各濃度につきtriplicate で測定するのか理想です。傾きがこれらの値から大きく外れたスタンダードは用いないでください。

PCR 効率と傾き: 検量線の傾きからリアルタイムPCR の効率がわかります。傾きが–3.322 であることは、すなわちPCR の効率が1 あるいは100%でありPCR 産物が各サイクルで2 倍に増えていることを意味しています。–3.322 より少ない傾き(例; –3.8)はPCR 効率が1 より低いことを示唆します。一般的に、ほとんどの増幅反応の効率は実験限界により100%に達することはありません。–3.322 より大きい傾き(例; –3.0)はPCR 効率が100%より大きいことを示します。このような傾きは、反応の対数直線領域でない範囲でthreshold を設定した、あるいは反応液中に阻害物質が存在したことを示しています。

リアルタイムPCR の効率は、テンプレートの希釈系列を作製し、CT 値をテンプレート量の対数値に対してプロットし、得られた検量線の傾きを求めることにより、計算できます。効率は傾き(S)から次式に従って計算できます: PCR効率 (%) = (10(–1/S) – 1) x 100

ページトップへ

リアルタイムPCR

リアルタイムPCR および定量PCR またはqPCR としても知られるRT-PCR は、DNA、cDNA およびRNA ターゲットのスタート量を正確に定量できます。各サイクルにおいて蛍光が測定されますが、蛍光量はPCR 産物量に比例するために、増幅反応と共に指数関数的に急速に増加します。PCR 産物は、二本鎖DNA に結合する蛍光色素、あるいは配列特異的な蛍光標識プローブを用いて検出されます。

ページトップへ

SYBR Green PCR とは?

蛍光色素SYBR Green I は全ての二本鎖DNA 分子に結合し、特定の波長で蛍光シグナルを発光します(図 SYBR Green の原理)。SYBR Green I の最大励起波長と発光波長はそれぞれ494 nm および521 nm であり、どのリアルタイムPCR 装置でも使用可能です。検出はリアルタイムPCR のエクステンションステップで行なわれます。サイクル数の増加と共にPCR 産物が蓄積するために、シグナル強度が顕著に増加します。SYBR Green を用いれば、ターゲットに特異的な標識プローブを合成しなくても多数の異なるターゲットを解析できます。しかし、非特異的なPCR 産物やプライマーダイマーも蛍光シグナルに影響するために、SYBR Green I を用いる場合には非常に高いPCR 特異性が必要とされます。

ページトップへ

Probe を用いたPCR とは?

蛍光標識プローブは目的のPCR 産物のみを検出するため、感度と特異性の非常に高い検出を実現します。しかし、配列特異的なプローブを用いる場合もPCR 反応の特異性は非常に重要です。非特異的なPCR 産物やプライマーダイマーのようなアーティファクトな増幅物が産生されると、目的PCR 産物収量の低下に繋がります。特異的なPCR 産物とアーティファクト産物との間で反応成分との競合がおこり、アッセイの感度や効率に悪影響があります。以下のようなプローブケミストリーが用いられます。

TaqMan プローブ: 蛍光色素とクエンチャーで修飾した配列特異的なオリゴヌクレオチドプローブです。蛍光色素はプローブの5' 末端に、クエンチャーは3' 末端に位置しています。PCR のアニーリング/エクステンションの間に、Taq DNA polymerase の5' 3' エキソヌクレアーゼ活性によりプローブは分解されると、蛍光色素とクエンチャーが離れ、蛍光色素がプローブから遊離します。この結果、PCR 産物の蓄積量に比例した蛍光シグナルが検出されます。

FRET プローブ: FRET (fluorescence resonance energy transfer) プローブを用いたPCR は、PCR 産物にプローブの最初と最後が近接して結合するような2 種類の標識オリゴヌクレオチドプローブを使用します。2 つのプローブが結合すると両者の蛍光色素が接近し、ドナー蛍光色素からアクセプター蛍光色素にエネルギーがトランスファーされます。従って、蛍光はPCR のアニーリング中に検出され、PCR 産物量に比例しています。FRET システムではプライマーとプローブをそれぞれ2 種類用いるため、プライマーとプローブのデザインが実験を成功させる鍵になります。

リアルタイムPCR で蛍光プローブに使用される色素: 配列特異的なプローブを用いたリアルタイムPCR に関して、それぞれ固有の最大励起波長と発光波長を持つ様々な蛍光色素が入手可能です(表 リアルタイム定量PCR に通常使用する色素)。多種多様な蛍光色素が入手可能であるため、使用するリアルタイムPCR 装置が励起および検出可能の色素を選択し、その色素の各発光波長が大きく離れていれば、マルチプレックリアルタイムPCR(同一反応内で2つ以上の増幅産物を検出)が行なえます。従って、マルチプレックスPCR を行なう際は、各蛍光シグナルのクロストークの可能性を回避するために、できるだけチャンネルが離れた色素を使用するのが最善です。

その他のプローブ: 多くのプローブメーカーがそれぞれ所有する色素を開発しています。詳細は各メーカーのウェブサイトをご参照ください。

リアルタイム定量PCR に通常使用する色素
色素  Excitation maximum (nm) Emission maximum (nm)*
 Fluorescein  490  513
 Oregon Green  492  517
 FAM  494  518
 SYBR Green I  494  521
 TET  521  538
 JOE  520  548
 VIC  538  552
 Yakima Yellow  526  552
 HEX  535  553
 Cy3  552  570
 Bodipy TMR  544  574
 NED  546  575
 TAMRA  560  582
 Cy3.5  588  604
 ROX  587  607
 Texas Red  596  615
 LightCycler Red 640 (LC640)  625  640
 Bodipy 630/650  625  640
 Alexa Fluor 647  650  666
 Cy5  643  667
 Alexa Fluor 660  663  690
 Cy 5.5  683  707
* 発光スペクトルはバッファー条件により変動することがある。

ページトップへ

PCR 定量 

核酸ターゲットは絶対定量法あるいは相対定量法により定量可能です。

絶対定量法では最初のステップとして、ターゲットの絶対量を算出しますが(コピー数あるいは濃度として表される)、相対定量法ではターゲット量とコントロール(例;内因性レファレンス分子、通常は最適なハウスキーピング遺伝子)量の比率を算出します。その後、この補正された値は、例えば異なるサンルにおける様々な遺伝子発現の比較に使用することができます。

絶対定量とは?

外部スタンダードの使用により、核酸の量を絶対コピー数として表わすことができます。遺伝子発現解析では、最も正確なスタンダードは、既知のコピー数または既知濃度を持つRNA 分子です。ターゲットRNA の配列や構造および逆転写反応の効率によっては、RNA サンプル中のターゲットRNA のある割合しか逆転写されません。逆転写反応によりcDNA を合成し、続くリアルタイムPCRのテンプレートとして使用します。RNA スタンダードを使用する場合は、逆転写反応効率の違いを考慮してください。

検量線(異なるスタンダード濃度希釈液のCT 値/crossing point をスタンダード量の対数値に対してプロットしたもの)のスタンダードは、少なくとも5種類の濃度の希釈系列を用いて作製します(図 絶対定量法)。未知のターゲット量は作製した検量線の範囲内になければなりません。スタンダードの希釈系列およびターゲット配列の増幅は別々のウェル中で行ないます。スタンダードサンプルのCT 値が決定され、その後、未知サンプルのCT 値から検量線を用いて未知サンプル中のターゲット量を決定します。定量する核酸タイプに応じて適したスタンダードを選ぶことは非常に重要です。スタンダードとして用いる核酸はコピー数あるいは濃度が既知であるだけではなく、以下のような特徴も備えていなければなりません。

  • プライマーおよびプローブの結合部位が定量したいターゲットと同じである
  • プライマー結合部位の配列がターゲット配列と同一あるいは非常に類似している
  • 増幅される配列の上流および下流配列が “本来” のターゲットと同一あるいは類似している
  • スタンダード分子とターゲット分子のPCR 効率が同じである
絶対定量用RNA スタンダード

RNA スタンダードは、目的転写物の一部あるいは全体を一般的なクローニングベクターにクローニングすることにより作製可能です。トータルRNA あるいはmRNA からRT-PCR により、あるいはcDNA からPCR によりインサートを作製できます。クローニングベクターは、T7、SP6、T3 のようなRNA ポリメラーゼプロモーターを含まなければなりません。インサートから合成されるin vitro 転写物はセンス鎖でなければなりません。残留したプラスミドDNA は分光光度計でRNA 濃度を測定する際にエラーの原因となったり、PCR のテンプレートになるため、in vitro 転写後のプラスミドDNA はRNase フリーDNase で完全に除去しなければなりません。さらにスタンダードとして使用するRNA は分解物や異常な転写物を含まないことを確認するために、ゲルあるいはキャピラリー電気泳動でシングルバンドであることをチェックします。

分光光度計によるRNA 濃度定量後、スタンダードRNA 分子のコピー数は次の式により算定できます:

(X g/µl RNA / [transcript length in nucleotides x 340]) x 6.022 x 1023 = Y molecules/µl 

あるいはRNA スタンダードとしてin vitro 転写物を使用する代わりに、ターゲットの絶対量が既に定量されたRNA(例;細胞株あるいはウイルスから調製したRNA)も使用できます。

絶対定量用DNA スタンダード

プラスミドDNA: DNA スタンダードを作製する最も容易な方法は、スタンダードベクターにPCR 産物をクローニングすることです。この方法の長所は、大量のスタンダードを調製できること、シークエンシングによる検証ができること、分光光度計によりDNA の定量が容易なことです。プラスミドスタンダードは、スーパーコイルプラスミドを用いるよりは、ターゲット配列の上流あるいは下流で直鎖状にしたものを用います。その理由は、直鎖状プラスミドのPCR 効率はスーパーコイル状のものとは異なる場合があり、ゲノムDNA あるいはcDNA のPCR 効率と非常に類似しているためです。

分光光度計によりプラスミドDNA を定量後、スタンダードDNA のコピー数は次の式により計算できます:

(X g/µl DNA / [plasmid length in base pairs x 660]) x 6.022 x 1023 = Y molecules/µl

PCR フラグメント: ターゲット配列を含むPCR 産物もDNA スタンダードとして使用可能です。増幅産物のプライマー結合部位の上流および下流の20 bp 以上含めることを推奨します。コピー数は上記のプラスミドDNA の式の “plasmid length” をPCR 産物の長さに置き換えて、計算できます。

ゲノムDNA: 目的のターゲットにハプロイドゲノムあたり1 コピーのみが存在し、偽遺伝子や非常に類似した配列の増幅が排除される場合は、絶対定量法のDNA スタンダードとしてゲノムDNA を使用できます。生体のゲノムサイズが既知の場合は、ゲノムDNA に存在するターゲットのコピー数は直接計算できます。例えばMus musculus のゲノムサイズ(ハプロイド)は2.7 x 109 bp であり、分子量は1.78 x 1012 Dalton です。

1.78 x 1012 g のゲノムDNA はシングルコピー遺伝子の6.022 x 1023 コピーに相当します。

1 μg のゲノムDNA はシングルコピー遺伝子の3.4 x 105 コピーに相当します。

相対定量とは?

相対定量法ではターゲット遺伝子の量とコントロール遺伝子(例;全サンプルに存在する内因性レファレンス分子)の量の比率を算出します。この比率は異なるサンプル間で比較します。遺伝子発現解析では通常ハウスキーピングあるいはメンテナンス遺伝子が内因性リファレンス遺伝子として用いられます。ターゲット遺伝子とリファレンス遺伝子は同じサンプルを用いて増幅します。この反応は別々のチューブでそれぞれ行なう場合と、1チューブ内で行なう場合(duplex リアルタイムPCR)があります。サンプルごとに補正した値を算出し、例えば、異なる組織におけるある遺伝子の発現レベルの差異を比較、あるいはsiRNAをトランスフェクトした細胞と未処理の細胞との遺伝子発現を比較することができます。内因性リファレンス遺伝子の発現レベルは、異なる実験条件下や異なる状態にある組織(“刺激” あるいは “未刺激” サンプルなど)において決して変動してはなりません。サンプル間で遺伝子発現レベルを比較する際は、例えば、ターゲット遺伝子の発現レベルが刺激細胞では未刺激細胞の約100倍高くなった、というように表現します。ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率がほぼ同程度であるか、または異なっているかにより、定量法は異なってきます。

PCR 効率の決定

2 種類の遺伝子(ターゲットA、ターゲットB)のPCR 効率は、リファレンスRNA あるいはcDNA サンプルから両遺伝子の希釈系列を調製することにより比較できます。各希釈系列を1 ステップまたは2 ステップのリアルタイムRT-PCR で増幅し、得られたCT 値をターゲットA およびターゲットB の検量線作製に使用します。各ターゲットのPCR 効率(E)は次式に従って計算できます:

E = 10(–1/S) – 1 (where S = slope of the standard curve)

2 つのターゲットのPCR 効率を比較するために、ターゲットA のCT 値をターゲットB のCT 値から引き、CT 値の差異をテンプレート量の対数値に対してプロットします(図 PCR 効率の比較)。作製された直線の傾きが0.1 未満の場合、両ターゲットのPCR 効率は類似していることになります。

PCR 効率が異なる場合

ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子では、プライマーのアニーリング効率、増幅される配列のGC 含有量、PCR 産物サイズなどが通常同じではないため、これらの遺伝子のPCR 効率は一般的には異なっています。この場合、内因性リファレンス遺伝子同様にターゲット遺伝子でも検量線の作製が必要です。例えば、リファレンスとなる細胞株(キャリブレーターあるいはリファレンスサンプル)から調製したトータルRNA を用いて検量線を作製します。

PCR 効率が違うため、得られた検量線は平行ではなく、異なるテンプレート量の場合にターゲット遺伝子とリファレンスのCT 値の差は一定していません(図 異なるPCR 効率)。

異なるPCR 効率を持つ場合の相対定量用ガイドライン:

  • 実験条件や異なる組織間で発現レベルが変動しない適切な内因性リファレンス遺伝子を選択する
  • ターゲットおよびリファレンスの検量線を作製するためにcDNA あるいはRNA コントロールサンプルの連続希釈液(例えば5 倍あるいは10 倍希釈)を調製する
  • リアルタイムPCR/RT-PCR を行なう
  • スタンダードあるいは目的サンプルのCT 値を決定する
  • 希釈率またはテンプレート量の対数値(X 軸)に対してCT 値(Y 軸)をプロットし、ターゲットおよびリファレンスの検量線をそれぞれ作製する
  • 対応する検量線とCT 値から目的サンプル中のターゲットとリファレンスの量を算出する
  • 補正されたターゲット量を計算するために、ターゲット量をリファレンス量で割る(replicate 反応を行なった場合、その平均値を用いる)
  • キャリブレーターサンプルを設定し、補正したターゲット量をキャリブレーターの値で割って目的サンプル中のターゲット遺伝子の相対発現レベルを比較する
類似しているPCR 効率の場合

ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率が類似している場合には、リファレンス遺伝子用の検量線だけで定量が可能です。この場合には、テンプレート量が変化してもターゲットとリファレンスのCT 値の差異は一定です(図 PCR 効率が同じ場合)。未知のサンプルのターゲットおよびリファレンス量は、そのCT 値をリファレンス遺伝子の検量線と比較することにより計算できます。

類似したPCR 効率を持つ場合の相対定量用ガイドライン:

  • 実験条件や異なる組織間で発現レベルが変動しない、適切な内因性リファレンス遺伝子を選択する
  • ターゲットおよびリファレンスの検量線を作製するためにcDNA あるいはRNA コントロールサンプルの連続希釈液(例えば5 倍あるいは10 倍希釈)を調製する
  • リアルタイムPCR/RT-PCR を行なう
  • スタンダードおよび目的サンプルのCT 値を決定する
  • • 希釈率またはテンプレート量の対数値(X軸)に対してCT値(Y軸)をプロットし、ターゲットおよびリファレンスの検量線をそれぞれ作製するConstruct a standard curve for the endogenous reference gene by plotting CT values (Y-axis) against the log of template amount or dilution (X-axis). 
  • 検量線とCT 値から目的サンプル中のターゲットとリファレンスの量を算出する
  • 補正されたターゲット量を計算するために、ターゲット量をリファレンス量で割る(replicate 反応を行なった場合、その平均値を用いる)
  • キャリブレーターサンプルを設定し、補正したターゲット量をキャリブレーターの値で割って目的サンプル中のターゲット遺伝子の相対発現レベルを比較する
比較CT 法(ΔΔCT 法)による相対定量

もう一つのアプローチは、CT 値を直接比較する比較CT 法(ΔΔCT 法)と呼ばれるものです。検量線は最初の実験でターゲットおよび内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率を決定するためにのみ作成が必要です。その後のすべての実験では、ターゲットの定量に検量線を作製する必要はありません。PCR 効率がほぼ同じ場合には、下に記載したようにCT 値を用いるだけで簡単にターゲット量を算出できます。

まず最初にターゲット遺伝子のCT 値と内因性リファレンス遺伝子のCT 値の差を計算して、各サンプルのΔCT 値を算出します。キャリブレーターサンプル、未知のサンプルごとにΔCT 値を決定します。

  • ΔCT (サンプル) = CT ターゲット遺伝子 – CT リファレンス遺伝子
  • ΔCT (キャリブレーター) = CT ターゲット遺伝子 – CT リファレンス遺伝子

次に各サンプルのΔCT 値からキャリブレーターサンプルのΔCT 値を引いて各サンプルのΔΔCT 値を決定します。

  • ΔΔCT = ΔCT (サンプル) – ΔCT (キャリブレーター)

ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率が同等で100%に近い場合には、ターゲット遺伝子の補正された発現レベルは次の式を用いて計算されます:

  • サンプルのターゲット遺伝子の補正された発現レベル = 2–ΔΔCT

しかし、ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率が同等でない場合には、この定量法は遺伝子発現レベルの不正確な判断につながります。

このエラーはPCR 効率およびサイクル数と相関関係があり、次の式で計算できます:

  • Error (%) = [(2n/(1+E)n) x 100)] – 100 (where E = PCR 効率; n = サイクル数)

この計算式から、PCR 効率が1.0 ではなく0.9 の場合、threshold cycle が25 におけるエラーは261%になります。計算した発現レベルは実際の値より3.6 倍低くなります。

Tip: ターゲット遺伝子と内因性リファレンス遺伝子のPCR 効率が同等、あるいはサンプル間の発現レベルの差がエラーを許容できるほど大きい場合にのみ、このΔΔCT 法を使うことができます。しかし、Relative Expression Software Tool(REST)のようなefficiency-corrected calculation program を用いてエラーを矯正することができます(文献5 参照)。

ΔΔCT 法を用いた相対定量のためのガイドライン:

  • ターゲットとリファレンスのPCR 効率を調べるための評価実験を行なう (PCR 効率の決定). 
  • 異なるサンプルに由来するRNA を用いてターゲットおよびリファレンスでリアルタイムRT-PCR を行なう
  • サンプルごとにターゲット遺伝子のCT 値から内因性リファレンス遺伝子のCT 値を減算してΔCT 値を決定する
  • キャリブレーターサンプルを決め、各サンプルのΔCT 値からキャリブレーターサンプルのΔCT 値を減算してΔΔCT 値を決定する
  • 計算式2–ΔΔCTを用いてキャリブレーターサンプルに対して補正したターゲットの発現レベルを計算する
内因性リファレンス遺伝子

遺伝子発現の相対定量では、リファレンスとして使用するために最適な遺伝子の選択が非常に重要です(表 内因性リファレンス遺伝子として通常使用するハウスキーピング遺伝子)。実験条件、あるいは同じ組織や細胞株での様々な状態(例; “疾病” サンプルと “謙譲” サンプル)において、リファレンス遺伝子の発現レベルは変動してはなりません。また、リファレンスRNA の発現レベルは研究目的のRNA の発現レベルと同程度でなければなりません。相対定量におけるリファレンスRNA としては、b-actin、b-2-microblobulin、peptidylprolyl isomerase A、GAPDH などのmRNA や18S rRNA が一般的に使用されています。β-actin mRNA は至るところで発現しており、リファレンス遺伝子として最初に使用されたRNA の一つです。しかし、転写物量が変動することもあり、また偽遺伝子の存在は、リアルタイムPCR の際にゲノムDNA が検出され、間違った定量結果を引き起こす原因になります。GAPDH は遺伝子発現定量のリファレンスとして汎用されているハウスキーピング遺伝子ですが、GAPDH mRNA 量は、個体間や細胞周期により変動したり、また様々な薬物処理後に変動することもあり、リファレンスとしては適さないシステムもあります。18S rRNA はmRNA ではないため、細胞中での18S rRNA の発現レベルは細胞mRNA 量を正確に反映していない可能性があります。従って定量実験では遺伝子の組み合せによって最適なリファレンスを検討する必要があります。

内因性リファレンス遺伝子として通常使用するハウスキーピング遺伝子
遺伝子  ヒトのgene symbol  マウスのgene symbol  ヒトの相対発現レベル* マウスの相対発現レベル*
 18S ribosomal RNA  RRN18S  Rn18s  ++++  ++++
 Actin, beta  ACTB  Actb  +++  +++
 Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase  GAPDH  Gapdh  +++  +++
 Phosphoglycerate kinase 1  PGK1  Pgk1  +++  +++
 Peptidylprolyl isomerase A  PPIA  Ppia  +++  +++
 Ribosomal protein L13a  RPL13A  Rpl13a  +++  +++
 Ribosomal protein, large, P0  RPLP0  –  +++  –
 Acidic ribosomal phosphoprotein PO  –  Arbp  –  +++
 Beta-2-microglobulin  B2M  B2m  ++ to +++  ++ to +++
 Tyrosine 3-monooxygenase/tryptophan5-monooxygenase activation protein, zeta polypeptide  YWHAZ  Ywhaz  ++ to +++  +
 Succinate dehydrogenase complex, subunit A, flavoprotein (Fp)  SDHA  Sdha  ++  +
 Transferrin receptor  TFRC  Tfrc  ++  +
 Aminolevulinate, delta-, synthase 1  ALAS1  Alas1  +  +
 Glucuronidase, beta  GUSB  Gusb  +  +
 Hydroxymethylbilane synthase  HMBS  Hmbs  +  ++ to +++
 Hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1  HPRT1  Hrpt1  +  +
 TATA box binding protein  TBP  Tbp  +  +
 Tubulin, beta  TUBB  –  +  –
 Tubulin, beta 4  –  Tubb4  –  +
* “+” は転写物の相対量を表わす。

ページトップへ

PCR コントロール 

No-template control

No-template control(NTC ;テンプレートを添加していないコントロール)によりPCR 試薬のコンタミを検出できます。NTC 反応液には、テンプレートを除くすべてのリアルタイムPCR 成分が含まれています。NTC 反応でポジティブシグナル検出が観察された場合は、核酸がコンタミしていることを示唆しています。

ポジティブコントロール

例えば、新しいターゲット配列を増幅する際に、プライマー・プローブの組み合わせがうまく作用するかを確認するために、ポジティブコントロールが必要です。ポジティブコントロールが既知のコピー数をもつ核酸テンプレートの場合、絶対定量のスタンダードにもなり、定量情報が得られます。確立した細胞株から精製した核酸、クローニングした配列を挿入したプラスミド、in vitro 転写RNA などの絶対定量のスタンダードは市販のものを購入することも、あるいはラボで作製することも可能です。ターゲットの有無の判定のみの場合は、絶対定量のスタンダードを置かずに既知のポジティブサンプルをポジティブコントロールとして使用できます。

No RT control

逆転写酵素なしにリアルタイムRT-PCR を行なうNo RT control は遺伝子発現解析を行なう際に必須です。検出したいウイルス種のライフサイクルおよびサンプルタイプにより異なりますが、ウイルス量モニタリングではNo RT control が必要になることがあります。No RT contriol では、逆転写反応が起こらないため、宿主細胞のゲノムに組み込まれたウイルス配列由来のDNA のような混入しているDNA を検出できます。RNA サンプルに混入したDNA はRT-PCR を開始する前にDNase 分解により除去できます。

インターナルコントロール

インターナルポジティブコントロールはPCR 阻害物質の存在をテストするために使用できます。ターゲット配列を1 種類のプライマー・プローブセットで増幅し、コントロール配列(インターナルポジティブコントロールなど)は別のプライマー・プローブセットで増幅するduplex 反応を行ないます。インターナルポジティブコントロールは正確な検出を行なうことのできる十分に高いコピー数でなければなりません。インターナルポジティブコントロールは検出されるがターゲット配列は検出されない場合は、増幅反応は成功したがターゲット配列は存在していない(あるいはコピー数が低すぎるために検出できない)ことを示唆しています。

サンプル抽出でのエラーや、サーマルサイクラーの誤操作など、いくつかの要因が偽陽性の結果を引き起こします。アッセイの失敗で最も多い原因は、PCR またはRT-PCR の阻害です。

阻害物質の存在を確認するために最もよく行なわれる実質的な手法は、内因性ポジティブコントロールまたはインターナルコントロール(IC)を用いることです。IC は同じチューブ内にある病原体ターゲットを同時に検出および増幅(または増幅のみ)し、ターゲット増幅用反応ミックスの機能性を証明するため、外因性ポジティブコントロール増幅と結合しなければなりません。この組み合わせは機能不全のうち、阻害を除外することで、陰性結果が本当に陰性であることを確認します。

全てのインターナルコントロールは同じではなく(表 インターナルコントロールの特徴)、またそれぞれのIC は、特異的な増幅が行なわれるように設定されています。内因性IC はßアクチンのような宿主ゲノムや、16S などの標準的な微小植物(マイクロフローラ)ゲノムの配列のようなサンプル中に自然に存在しています。一方、外因性IC は核酸のエクステンション中またはPCR 増幅の前にサンプルにスパイクされます。

外因性IC がホモロガスである場合には、合成テンプレートはターゲットの病原体の配列とプライマーが同じ部位に結合するように構成します。同じプライマーセットが配列の異なるターゲットとIC のために使用されますが、病原体とIC のアンプリコンの区別は異なるプローブにより可能です。一方、ヘテロロガスIC は、彼ら自身のプライマーとプローブで設計されます。

内因性および外因性ホモロガスIC は、反応に使用される構成物質との競合により、病原体ターゲットの検出感度に障害がでるリスクをもたらします。たとえば、内因性IC テンプレート量が多いとアッセイの感度が損なわれます。このスタートサンプル量が多くなってしまうことは、サンプル採取の技術またはサンプル種が多いことが原因です。RNA のアプリケーションでは、疾病に関連する細胞病理によるICの発現レベルが高いため、スタートサンプル量が多くなります。外因性ホモロガスIC の場合は、ターゲットとIC の両方に結合するプライマーを用いるため、プライマーの競合が起きます。さらに、内因性および外因性ホモロガスIC のどちらも面倒なデザインをしなければならないだけでなく、限られた数の、または場合によっては個別のアッセイでの限定した使用しかできません。

安全なプロセスとワークフローの簡略化を再検討するにあたって、外因性ヘテロロガスIC はもっとも情報が多く、柔軟性があります。サンプルにスパイクするIC のテンプレート量は明確に決まっており、制限のないデザインのオプションがIC の特性の至適化を可能にします。ヘテロロガスIC のみがデザインと、PCR を構成する物質との競合を防ぐ組み合わせが可能なため、ヘテロロガスIC はユニバーサルコントロールとして最適で、特に新しいアッセイの導入を容易にします。

インターナルコントロールの特徴
特長  外因性ホモロガス  外因性ヘテロロガス 内因性
 複数のアッセイ用に共通して使用  No  Yes  No
 精製操作用のコントロールとして提供  Yes  Yes  Yes
 増幅エラーから精製のエラーを識別  Yes  Yes  No
 確実で一貫性のあるテンプレート品質  Yes  Yes  No
 競合しない、インターナルコントロールとしてデザイン  No  Yes  Yes

ページトップへ

PCR のタイプ

マルチプレックスPCR

マルチプレックスPCR では一つの反応液中で多数のプライマーペアを使用して複数のターゲットを同時に増幅します。このタイプのPCR 実験では、異なるプライマー/テンプレートシステムで最大の増幅効率を得るためにアニーリング条件の大規模な至適化が必要であり、非特異的なPCR 副産物もしばしば増幅されます。厳密なホットスタート法および特別に至適化されたバッファーシステムは、マルチプレックスPCRを成功させるための必須条件です。

一つのプライマーペアを用いるスタンダードPCR システムと比較して、マルチプレックスPCRの 問題はプライマーペアごとにハイブリダイゼーション速度が異なることです。高い確率で結合するプライマーはPCR 反応成分をより多く消費するため、その他のプライマーから増幅されるPCR 産物の収量が低下します。その結果、増幅されないDNA 配列が生じ、予想されたPCR 結果が得られないことがあります。市販されているPCR キットはマルチプレックスPCR におけるこれらの問題を克服するように特別にデザインされていますので、可能であればこのような場合に使用することをお勧めします。

ロングレンジPCR

Taq DNA ポリメラーゼを用いた標準的なPCR プロトコールを用いると4 kb までのPCR 産物をルーチンで増幅できます。しかし、4 kb 以上のPCR 産物の増幅では時間のかかる至適化を行なわなければ失敗することがあります。失敗の原因として、プライマーの非特異的なアニーリング、テンプレートDNA の二次構造、不適切なサイクリング条件があり、これらの要因は短いPCR 産物より長いPCR 産物の増幅に大きく影響します。テンプレート内にDNA 損傷が一箇所あるとPCR 酵素反応が停止するため、長いPCR 産物の増幅にはDNA の脱プリン化のようなDNA 損傷を回避することが特に重要です。増幅反応のpH を安定化する特殊な緩衝物質によりPCR サイクリング中のDNA損傷は最小限に抑えられます。Taq DNA ポリメラーゼが反応液に適切に含まれているものや、プルーフリーディング酵素を用いるようなロングレンジPCR でのこれらの問題を克服するために特別にデザインされた市販のPCR キットが入手可能ですので、可能であればこのようなキットを使用することを推奨します。

シングルセルPCR

限られた量のスタートサンプルで遺伝子解析を行なう場合にシングルセルPCR は非常に有用なツールです。フローサイトメトリーやマイクロマニピュレーションで、細胞表面マーカーや物理的な可視化を基に目的細胞の分離が可能です。微量のテンプレート分子(1 または2 遺伝子コピー)の増幅には効率、特異性、感度の高いPCR システムが必要です。繰り返しになりますが、市販のPCR キットが特異的なシングルセルPCR 用に入手可能です。

高速サイクリングPCR

PCR 増幅時間の短縮はPCR のスループット数を増大し、研究者にダウンストリーム解析に必要十分な時間を与えます。実験完了までの時間を短縮するという要望は、高速PCR 技術の最近の開発により実現しました。高速PCR は高速での温度制御が可能な新型のサーマルサイクラーを用いるか、変性、アニーリングおよび伸長時間とサイクリング時間を顕著に短縮する革新的なPCR 試薬類を用いることにより可能です。高速サイクリングPCR 試薬は増幅の特異性および感度を維持するため至適化されていなければなりません。

メチル化特異的PCR (MSP)

Sodium Bisulfite で処理後、ターゲットDNA のメチル化状態をMSPにより調べることができます。この方法では2セットのプライマーペアすなわち、Bisulfite 処理で非変換のシトシン(ゲノムDNA 内のメチル化シトシンに由来)にアニーリングするセットと、ゲノムDNA 内の非メチル化シトシンがBisulfite 処理により変換したウラシルにアニーリングするセットの2種類が必要です。非変換の配列に対応するプライマーセットで増幅された産物は、シトシンがメチル化されており、Bisulfite 処理による変換から保護されたことを示しています(6)。

さらに非特異的なプライマー結合やPCR アーティファクトの増幅を回避するため厳密で特異性の高いPCR 条件を使用しなければなりません。非メチル化シトシンのウラシルへの変換によりDNA 配列の複雑性が低下し、非特異的なプライマー・テンプレート結合の傾向が増大するため、PCR 条件の至適化は特に重要です。

ホットスタートPCR

詳細は、ホットスタートDNA ポリメラーゼ をご参照ください。

ハイフィデリティPCR

詳細は、ハイフィデリティDNA ポリメラーゼ をご参照ください。

RAPD: Randomly amplified polymorphic DNA analysis

RAPD はPCR をベースとし、分子レベルでの生物研究を可能にするツールです。ゲノムDNA の部位をランダムになるように増幅するために、短く非特異的なプライマーを使用します。うまく設計されたプライマーペアを用いると、アガロースゲル解析を行なった時に、個体、株、生物種など異なるバンドのPCR 産物を精製します。

RAPD では、プライマーは10 塩基以下の長さしかありません。そのためアニーリング温度は40℃以上である必要があります。

RACE: Rapid amplification of cDNA ends

RACE はRT-PCR の一種で、メッセンジャーRNA テンプレートから、既知および3' 末端または5' 末端にある未知配列までの塩基配列を増幅する操作です。RACE を行なうには解析したいmRNA にある短い配列情報のみが必要です。cDNA 変換できなかった残りの部分をクローニングするのにもよく利用されます。RACE には以下の2 種類があります:

  • 5' RACE — 5' 末端側cDNA を増幅
  • 3' RACE — 3' 末端側cDNA を増幅

最初のステップはどちらのタイプのRACE でも共通で、逆転写酵素を用いてRNA を一本鎖cDNA に変換します。第2 ステップは、それぞれのタイプのRACE に特有ですが、どちらの合成も完全長cDNA が得られます。

RACE はmRNA の中にリファレンス部位として “アンカーサイト” を用いており、そのため “アンカーPCR” としても知られています。

In situ PCR

In situ PCR は、スライド上の細胞を用いてPCR を行ない、PCR またはRT-PCR アンプリコンの感度をin situ ハイブリダイゼーションと組み合わせる手法です。In situ PCR は、細胞性マーカーの決定や、組織や血液サンプルなどの細胞集団中の細胞特異的配列の位置を確認することも可能にします。これにより、疾患の進行に関する研究のようなアプリケーションに有用なツールです。

新鮮または固定された細胞および組織サンプルが使用できますが、固定はPCR のシグナルに直接影響するためサンプルの前準備が結果には非常に重要です。この操作には、放射性同位体での識別、蛍光ラベルもしくはビオチンラベルのプローブの使用が適しています。

(Mg2+ 濃度などの)反応条件の調整以外は、PCR 操作は一般的なPCR と基本的に同じです。

ディファレンシャルディスプレイPCR

ディファレンシャルディスプレイPCR はRT-PCR をベースとしたPCR で、2 つの細胞株または集団のmRNA(つまり結果として遺伝子の)発現パターンの違いを比較および同定するために用いられます。

この技術では、1 本鎖cDNA 合成は、mRNA のpoly(A) tail と補完する13 ヌクレオチド以下のアンカープライマーと転写配列に隣り合った2 つのヌクレオチドによって行ないます。逆転写および増幅後、増幅産物はゲル電気泳動を用いて視覚化されます。観察されるバンドのパターンで、2 つの集団のcDNA 発現の違いを同定し、比較することができます。

1990 年代に開発され、この技術は遺伝子発現解析においてカギとなるツールになりました。しかし近年では、RNA-seq、マイクロアレイ、qRT-PCR にその役割が取って代わられています。

ページトップへ

RT-PCR のガイドライン

リアルタイムRT-PCR を行なう際に、逆転写反応用のプライマーと酵素は慎重に選択してください。プライマーは目的のターゲットすべての逆転写反応を実現し、逆転写酵素は正確な定量を行なうためにオリジナルのRNA 量を正確に反映するcDNA を合成しなければなりません。さらにRT 反応成分が次に行なうリアルタイムPCR に及ぼす影響を最小限にする必要があります。

スタートサンプルとしてRNA を用いたPCR を行なうために、RNA は逆転写反応(RT)でcRNA に逆転写されなくてはなりません。RT およびPCR は同じチューブ内で続けて行なうこと(1 ステップRT-PCR)も、別に行なうこと(2 ステップRT-PCR)もできます。1 ステップRT-PCR には遺伝子特異的なプライマーが必要です。

ページトップへ

2 ステップおよび1 ステップRT-PCR

リアルタイムRT-PCR は2 ステップあるいは1 ステップ反応で行なえます(図 2 ステップと1 ステップRT-PCR の比較 および表 各RT-PCR 法の利点)。2 ステップRT-PCR では、まずオリゴdT プライマー、ランダムプライマー、あるいは遺伝子特異的プライマーを用いてRNA をcDNA に逆転写します。その後、逆転写反応液の一部をリアルタイムPCR に添加します。実験の必要性に応じて異なるタイプのRT プライマーを選択することが可能です。逆転写反応でオリゴdT プライマーあるいはランダムプライマーを使用すると、一回のRT 反応液から複数の転写物をPCR により解析できます。また、貴重なRNA サンプルをより安定なcDNA に迅速に転写し、後で使用したり長期間保存することができます。

1 ステップRT-PCR(ワンチューブRT-PCR とも言われる)では、同一チューブ内でまず逆転写反応を行ない、続けてリアルタイムPCR を行ないます。この方法は特別な反応試薬とサイクリングプロトコールにより実現できます(1 ステップRT-PCR の逆転写反応条件 の項参照)。簡便な手法なため、多くのサンプルを迅速に処理でき、簡単に自動化することも可能です。実験操作のステップ数が少なくなるため、サンプル間の再現性は高くなり、コンタミのリスクも最低限に抑えることができます。

各RT-PCR 法の利点
方法 利点
 2 ステップRT-PCR  一回の逆転写反応で複数のPCR
 RT プライマーの柔軟な選択
 cDNA の長期保存が可能
 1 ステップRT-PCR  簡便な取り扱い
 迅速な操作
 高い再現性
 低いコンタミのリスク
 

ページトップへ

RT プライマーの選択 

逆転写反応用プライマーの選択は1 ステップあるいは2 ステップのRT-PCR を行なうかにより異なります。1 ステップRT-PCR では、ダウンストリームのPCR プライマーが逆転写反応のプライマーとして利用されます。従って、1 ステップRT-PCR は常に遺伝子特異的なプライマーを用いて行ないます。2 ステップRT-PCR では、3 種類のプライマーやそのミックスを逆転写反応に使用します:オリゴdT プライマー(一般的に13 ~18mer)、ランダムプライマー(hexamer、octamer、nonamer など)、あるいは遺伝子特異的プライマー(表 RT-PCR 用に推奨するRT プライマー)。オリゴdT プライマーを使用すれば、3' 末端のpoly-A tail からmRNA のみが逆転写されます。ランダムプライマーを用いると、リボゾームRNA、トランスファーRNA、small nuclear RNA を含むすべてのRNA の逆転写反応ができます。RNA 分子内の数カ所で逆転写反応が開始されるため、比較的短いcDNA 分子が生じます。一方、遺伝子特異的なプライマーは目的転写物の逆転写反応を行ないます。

2 ステップリアルタイムRT-PCR のRT ステップのためのユニバーサルプライミング法は、転写物の長さやアンプリコンの位置に関わらず全てのPCR 産物の増幅を検出ができ、再現性と感度の高い結果が得られます。

RT-PCR 用に推奨するRT プライマー
アプリケーション 推奨するプライマータイプ
 RT-目的転写物のRT-PCR  遺伝子特異的なプライマーは高い選択性をもち、目的のRNA のみ逆転写する
 長いアンプリコンのRT-PCR  オリゴdT あるいは遺伝子特異的プライマー
 長い転写物からのアンプリコンのRT-PCR  全ての転写物をカバーするcDNA を合成するために、遺伝子特異的なプライマー、ランダムプライマー、あるいはオリゴdT プライマーとランダムプライマーのミックス

ページトップへ

2 ステップRT-PCR の逆転写反応条件

2 ステップRT-PCR に添加するRT 量の影響

2 ステップRT-PCR では、逆転写反応液を増幅反応液に添加する際に、cDNA テンプレートだけでなく、塩類、dNTPs、RT 酵素も添加されます。リアルタイムPCR バッファーとは異なる塩成分を持つRT 反応バッファーはリアルタイムPCR 結果に悪い影響を与えます。しかし、最終リアルタイムPCR 反応液量に対して添加するRT 反応液量が10%以下であれば、PCR パフォーマンスにはほとんど影響しません。20 μl のPCR 液に、最終容量の15%に相当する3 μl のRT 反応液を添加すると、有意なリアルタイムPCR 阻害が引き起こされます。アッセイの直線性を調べるために、RT 反応液の希釈液を用いてリアルタイムPCR をテストすることをお薦めします。このテストは、正確な転写物の発現定量に影響する可能性があるRT 反応液の阻害作用を除くのに役立ちます。

RNA の二次構造の影響

RNA の二次構造は多岐にわたりRT-PCR の結果に影響を与えます。複雑な二次構造を持つRNA 領域は、逆転写酵素の伸長停止、あるいはRNA テンプレートから解離する原因になることがあります(図 複雑な二次構造がRT-PCR に及ぼす影響:RT への影響 )。

不完全なcDNA はダウンストリームにおけるプライマーの結合部位が欠如しており、PCR 反応で増幅されません。あるいは、RNA のループ領域を逆転写酵素がスキップしてしまい、合成されたcDNA にはループ領域が含まれなくなります。このように欠損部分を持つcDNA がPCR ステップで増幅されると、目的のPCR 産物より短いPCR 産物が産生されます。理想的な逆転写酵素とは、RNA の二次構造の影響を受けず、至適化実験の必要がなく、どのようなテンプレートからも逆転写反応を行なえなければなりません。

GC 含有量が高く、RNA : DNA ハイブリッドの結合が強固なためPCR 中のプライマー結合を妨害し、DNA ポリメラーゼの作用を妨げます。RNase H 活性は、RNA :DNA ハイブリッドのRNA を分解し、プライマーの結合と、続くDNA の合成を可能にします。(図 GC リッチ領域がRT-PCR に及ぼす影響: PCR への影響)。RNase H 分解がRT-PCR 収量を改善し、さらに配列によってはわずか157 bp の短いシークエンスの増幅にも必要であることが既に報告されています(7)。

ページトップへ

1 ステップRT-PCR の逆転写反応条件

1 ステップRT-PCR での理想的な逆転写酵素もまた前述の2 ステップRT-PCR 用の逆転写酵素と同様の特性を示すべきです。しかし、1 ステップRT-PCR における大きな問題の一つは、逆転写酵素のPCR ステップへの阻害作用があり、これにより2 ステップRT-PCR に比べるとCT 値が上昇したり、感度や特異性の低下することがあります。

ページトップへ

RT-PCR 用プライマーデザイン 

RT-PCR における効率と特異性の最大化のための重要な要因の一つは、適切なプライマーの選択です。プライマーの特異性は配列、プライマーの位置および使用するRT-PCR のシステムを含む要因に影響されます。一般的なPCR 用プライマー設計のルールは、RT-PCR 中のプライマーダイマーやミスプライミングを避けるようにもなっています(図 PCR プライマーデザイン)。逆転写反応でcDNA が産生されるときに非特異的なプライミングの影響をより受けやすいため、これらの影響は一本鎖DNA の性質により、RT-PCR ではより明確です。RT-PCR での非特異的なプライミングは工程の感度を下げ、RT-PCR の特異的産物の収量を低くし、失敗につながります。

ゲノムDNA のコンタミ増幅を避けるため、RT-PCR のプライマーの半分が、あるエキソンの3' 末端と隣接するエキソンの5' 末端境界領域にプライマーをハイブリダイズするように設計しなければいけません(図 RT-PCRプライマーデザイン)。このようなプライマーはゲノムDNA ではなく挿入mRNA から合成されたcDNA にアニーリングします。

DNA のコンタミによる増幅を避けるため、RT-PCR のプライマーは、少なくとも一つのイントロンを含むフランキング領域(非翻訳領域)にプライマーをハイブリダイズさせるように設計します。イントロン以外のcDNA からの増幅産物は、(イントロンを含む)ゲノムDNA からの増幅よりも小さくなります。

mRNA 配列しかわからない場合には、300~400 bp 離したところにプライマーのアニーリング部位を選んでください。真核生物DNA からのこのサイズのフラグメントに接合交差点が含まれる可能性があります。これまで説明してきたように、このようなプライマーはDNA コンタミを検出するために使用することもできます。

RT-PCR 用プライマーのデザインにおいては、以下のようなファクターを検討する必要があります:

  • アニーリング温度がRT-PCR 効率および感度に影響することがある
  • 高いプライマー濃度はミスプライミングとプライマーダイマーの形成の原因になりうる
  • 厳密なホットスタートは適切なRT-PCR のパフォーマンスに必要不可欠である
  • RT-PCR 用のプライマーは、RNA およびコンタミDNA のシグナルを区別するようにデザインする。最高の結果を得るために、RT-PCR 中のDNA による競合を避けるためにDNA フリーRNA を用いる。

ページトップへ

RT-PCR に使用する酵素 

RT-PCR は逆転写酵素とPCR を用いてRNA 解析を実現します。通常は様々なレトロウイルス(例;Avian Myeloblastosis Virus [AMV] あるいはMoloney murine leukemia virus [MMLV])から分離されたRNA 依存DNA ポリメラーゼである逆転写酵素を用いてテンプレートRNA からcDNA を合成します。

DNA ポリメラーゼのような耐熱性DNA ポリメラーゼは特殊な条件下で逆転写酵素活性を示しますが、これらの酵素は中温性の逆転写酵素と同等の効果的な逆転写は行ないません。

逆転写酵素により合成された1 本鎖cDNA は2 本鎖DNA (例;ゲノムDNA)より低温で非特異的にプライマーがアニーリングしやすいので、特異性の低い増幅結果しか得られないことがあります。特にcDNA 量が少ない場合や発現量の低いテンプレートの場合には、感度や再現性の低下に繋がります。特異性の高い増幅はRT-PCR の成功にとって非常に重要で、革新的なバッファー溶液と特殊な修飾を施した逆転写酵素、およびホットスタートPCR 法と組み合わせることにより良い結果が得られます。

ページトップへ

マルチプレックスPCR およびRT-PCR

マルチプレックスリアルタイムPCR では、同一の反応で複数種類のゲノムDNA ターゲットを同時に定量できます。マルチプレックスリアルタイムRT-PCR も同様に、同一反応で複数種類のRNA ターゲットを同時に定量できる方法です。この方法は、2 ステップRT-PCR あるいは1 ステップRT-PCR のどちらでも行なえます。

マルチプレックスPCR およびRT-PCR は、遺伝子発現解析、ウイルス負荷モニタリング、ジェノタイピングなどのアプリケーションで多くの利点があります。ターゲット遺伝子とインターナルコントロールを同一反応液中で同時に増幅することにより、別々の増幅反応で行なった場合に生じるウェル間のばらつきを回避できます。異なるサンプル間で発現が変動しない内因性遺伝子(ハウスキーピング遺伝子など;表 内因性リファレンス遺伝子として通常使用するハウスキーピング遺伝子)あるいは外因性核酸をインターナルコントロールとして使用できます。ウイルス負荷モニタリングでは、外因性核酸をインターナルコントロールとして使用することで、サンプル調製の成果、阻害物質の不在、PCR の成果に関するパラメーターをチェックできます。マルチプレックス解析はターゲット遺伝子の量をコントロールのリファレンス遺伝子で補正し、遺伝子の相対定量を高精度で実現します。また同一反応における複数遺伝子の定量は、試薬の経費や貴重なサンプルの消費を抑え、スループット数を増やすことが可能です。

個別の蛍光色素と適切なクエンチャーでそれぞれ標識した配列特異的なプローブを使用することにより、マルチプレックスPCR/RT-PCR が可能です。すなわち各色素の最大発光波長が明確に分離され、オーバーラップしないように蛍光色素を選択しなければなりません。さらに、マルチプレックス解析(同一ウェルあるいはチューブ中でのオーバーラップしていない色素の励起と検出)に適したリアルタイムPCR 装置で反応を実施します。

ページトップへ

全トランスクリプトーム増幅(WTA)

全トランスクリプトーム増幅(Whole transcriptome amplification、WTA)は微量のRNA から全トランスクリプトームを増幅し、リアルタイムRT-PCR による大規模な解析を行なえます。RNA サンプルのWTA はmultiple displacement amplification (MDA)の前に逆転写反応とcDNA ライゲーションを行ないます。

量がナノグラム単位のRNA サンプルしか入手できないときは、リアルタイムRT-PCR 解析を行なえる回数が限られます。この問題をWTA により解決できます。このテクノロジーにより、、RNA サンプル中の全てのmRNA 転写物はマイクログラム単位量のcDNA テンプレートを提供するために複製され、無制限にリアルタイムPCR 解析が行なえ、安定的に保存できます。

WTA テクニック

WTA 法において全トランスクリプトームの偏りのない正確な増幅が、リアルタイムPCR で信頼できる結果を得るために重要です。すなわち各転写物の配列および相対量がWTA 後にも保たれていなければ、遺伝子発現解析で間違った結果に繋がります。WTA の原理は、図 全トランスクリプトーム増幅の模式図 をご覧ください。

Random プライマーとオリゴdT プライマーの混合プライマーを用いて逆転写反応が行なわれるために、5' および3' 両領域を含む全転写配列をカバーするcDNA ライブラリが得られます。cDNA のライゲーションに続いて、ユニークなDNA polymerase を用いたMDA によりcDNA が増幅され、このcDNA はオリジナルのRNA サンプルの転写物を反映しています。これは正確な遺伝子発現解析に重要です。

WTA を行なう際に、スタートサンプルの量(細胞数やRNA 量)や目的の転写物のコピー数を考慮することが重要です。表 様々な細胞数中に提示される転写物量 に、スタートサンプル量とそれに含まれる転写物のコピー数の関係を示します(注:これはガイドラインであり、スタートサンプル量あたりの転写物の数は変動することがある)。転写物のコピー数が10 以下のスタートサンプル(表中に太字で表示)では、確率論的な問題が生じ(希釈率が高い溶液では非常にコピー数が低い転写物は分布が不均一になる)、このために、WTA 開始時点で低コピー数の転写物が実際に存在する割合より低くなるかもしれません。組織内のある一部の細胞のみで発現している遺伝子由来の転写物(mosaic transcripts)では特別な配慮が必要になります。これらの転写物はすべての細胞に存在していないために、微量のスタートサンプル(1~102 細胞)では正確な発現プロファイルが示されません。

信頼できるWTA は転写物のコピー数次第です。10 ng のRNA は約500 細胞に相当し、低コピー数の転写物もこのRNA 量内に十分に存在します。10 ng 未満のRNA 量あるいは非常に少数の細胞数を使用すると、スタートサンプル中に低コピーの転写物が一部分しか存在しないか、全く存在しないことがあります。

様々な細胞数中に提示される転写物量
パラメーター  103 cells*  103 cells  10 cells 1 cell§
 RNA 量 (ng)  20  2  0.2  0.02
 No. of high-copy transcripts  107  106  105  104
 No. of medium-copy transcripts  105  104  103  102
 No. of low-copy transcripts  103  102  10  1
 No. of mosaics transcripts  102  10  1  0
* 全転写物が完全に含まれる。
Mosaic transcripts で確率論的な問題がある。
Low-copy transcripts およびmosaic transcript で確率論的な問題がある。
§ Low-copy transcripts での確率論的な問題があり、mosaic transcript は消失。

ページトップへ

DNA コンタミ

ゲノムDNA コンタミの除去

使用したプライマーがゲノムDNA 配列も増幅する場合、微量のゲノムDNA が混入したRNA サンプルはリアルタイムRT-PCR 定量を阻害します。ゲノムDNA コンタミによる悪影響を回避するために、プライマーのデザインは慎重に行なわなければなりません(プライマーデザイン参照)。これが不可能な場合、RNA サンプルのDNase I 処理を行ない、混入しているDNA を分解します。

RT-PCR でのDNA コンタミ検出

適切なコントロールの使用により、RT-PCR でのDNA コンタミを検出することができます。反応は逆転写反応酵素が含まれるものと含まれないものを用意します。逆転写反応酵素がある反応でPCR 産物が存在した場合は、コンタミの可能性があります。

ページトップへ

References

Bustin, S.A., ed. (2004) A-Z of Quantitative PCR. La Jolla, CA: International University Line.

Cited references
  1. Ausubel, F.M., et al. (1991) Current Protocols in Molecular Biology. New York: John Wiley and Sons.
  2. Pavlov, A.R. et al. (2004) Recent developments in the optimization of thermostable DNA polymerases for efficient amplifications. Trends in Biotechnology 22, 253.
  3. Thellin, O. et al. (1999). Housekeeping genes as internal standards: use and limits. J. Biotechnol. 75, 291.
  4. Vandesompele, J., et al. (2002) Genome Biol. Accurate normalization of real-time quantitative RT-PCR data by geometric averaging of multiple internal control genes. 3, RESEARCH0034.
  5. Pfaffl, M.W., Horgan, G.W., and Dempfle, L. (2002) Relative expression software tool (REST©) for group-wise comparison and statistical analysis of relative expression results in real-time PCR. Nucleic Acids Res. 30, e36.
  6. Derks, S. et al. (2004) Methylation-specific PCR unraveled. Cell Oncol. 26, 291.
  7. Tacke, E. et al (1995) Transposon tagging of the maize Glossy2 locus with the transposable element En/Spm. Plant J. 8, 907.

ページトップへ


リソース

You are not authorized to download the resource

DNA
1
Isolation and quantification of genomic DNA from different sample sources and plasmid DNA. How to make and transform competent cells, how to culture and handle plasmid-containing cells, and commonly used techniques for analysis of genomic DNA.
表示
RNA
1
This section describes considerations for isolation and quantification of RNA from different sample sources and RNA storage. It also deals with RNAi and the use of siRNA, together with miRNA, mimics, and inhibitors.
表示
全ゲノム増幅
1
Whole genome amplification was developed as a way of increasing the amount of limited DNA samples. This is particularly useful for forensics and genetic disease research, where DNA quantities are limited, but many analyses are required. Various WGA techniques have been developed that differ both in their protocols, amplification accuracy, and ease-of-use.
表示
次世代シークエンシング
1
Following the completion of the human genome project, the high demand for low-cost sequencing has given rise to a number of high-throughput, next-generation sequencing (NGS) technologies. These new sequencing platforms allow high-throughput sequencing for a wide range of applications.
表示
エピジェネティクス
1
The study of epigenetic mechanisms and DNA methylation has become increasingly important in many areas of research, including DNA repair, cell cycle control, developmental biology, cancer research, identification of biomarkers, predisposition factors, and potential drug targets.
表示
トランスフェクション
1
Transfection — the delivery of DNA or RNA into eukaryotic cells — is a powerful tool used to study and control gene expression.
表示
タンパク質
1
As well as providing some general background into proteins and their biology, this guide covers commonly used protocols for expression, purification, analysis, detection and assays.
表示
動物細胞培養
1
Useful hints for culturing animal cells (i.e., cells derived from higher eukaryotes such as mammals, birds, and insects). The guide covers different types of animal cell cultures, considerations for cell culture, and cell culture protocols.
表示