南極でのダイビングによる新たな生命の発見

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南極クィーンモードランドのウンターゼー湖にて、米SETI研究所のデール・アンダーセン博士らの研究チームが、激しく吹き荒れる風と雪に耐えながらある調査を行ないました。ウンターゼー湖は、「南極のオアシス」ともいわれる地域にある淡水の氷底湖で、夏でも厚い氷に覆われています。研究チームは、この地に半年間滞在し、この氷の下の湖を調査しました。そして、地球初期の生態系の機能を探り、地球外生命の探索方法を見出す手がかりとなる微生物群を発見し、その貴重なサンプルの採取・保存に成功しました。過酷な極寒地での調査の様子をさっそくご紹介しましょう。
動画を見る:サイエンスの知見を求めて南極でダイビング
南極へ
数か月にわたる綿密な計画と準備を整え、チームメンバーは、南アフリカ・ケープタウンに集結しました。ここから6時間のフライトを経て、ノボラザレフスカヤ南極観測基地局へ到着後、南極東部最大の湖、ウンターゼー湖まで、内陸へ125 km、トラックでの危険なドライブが続きます。目的地まではおよそ6 ~8 時間ぐらいですが、いくつもの氷河の割れ目を避け、激しい吹雪で身動きが取れなくなるなど、予測不可能な気象条件と闘いながらの行程のため、なかなか予定通りに進みません。

やっとの思いでアヌシン氷河を渡ると、氷で閉ざし、行く手を阻むように高くそびえ立つ、クィーンモードランドの岩山が彼らの眼前に現れました。このすばらしく壮大な景観には、だれもが、過酷な旅の苦労が報われたように感じました。この岩と氷に覆われた山の下に、地球初期の生物圏と類似した環境のウンターゼー湖があります。 荷を下ろしたトラックが出発してしまうと、いよいよチームメンバーだけで、肉体的・物理的に厳しいたいへんな任務に取り掛かることになります。彼らの任務とは、湖岸に沿ってオレンジ色のドームテントを設営し、広大な氷に閉ざされた湖に潜り、この極限環境における生体系を調査するための生体サンプルを採取することです。

氷の下に隠れていたものは?
厚い氷にダイビング用の穴を開けるのはたいへん困難な作業です。湖の汚染を防ぐために非毒性の不凍液を使用し、スチームクリーナーと小型の過熱コイルだけをたよりに、24 時間以上かけて、ようやく穴を開けることができました。しかし、過酷な気象環境の上、pH レベルがきわめて高く(>10.4)、水中のメタン濃度条件などを考慮しても、ここで生命体が生存することは不可能に思えます。ところが、氷の下に潜り探索してみると、少なくとも水深150 mの湖底まで、光合成を行なう微生物がびっしりと広範囲に、まるでカーペットのように堆積しているのを発見したのです。それらは数十億年前から、いかなるものにも邪魔されることなく成長しつづけていたのです。

デール・アンダーセン博士は、次のように述べています。
「これは、まるで過去から送られてきた絵葉書を見るようでした。惑星初期の環境は、太陽光は30 %弱く、酸素はほとんどない、湖や川、海洋といった水生環境でした。このような今日とは全く異なる環境で、生態系がどのように繁栄していったのかを理解する上でたいへん重要な情報なのです。」 

答えを探して
湖底から0.5 mぐらいまでのドーム型に隆起した、たくさんの現生の「ストロマトライト」は、他では見つかってはいません。ストロマトライトは、藍藻類(シアノバクテリア)と堆積物が何層にも積み重なって形成される岩石で、その構造など未解明な部分もあります。かつての地球環境で一般的であったシアノバクテリアは、光合成で生み出した酸素を海水中に放出していたと考えられており、このことは、光合成を行なっていた初期の生物群の機能を理解する手がかりとなります。このような生命システムを研究するためには、メタゲノミクスやトランスクリプトームといった分子解析技術が重要であり、そこで信頼性の高い結果を得るためには、サンプルの保存方法がキーポイントになります。

アンダーセン博士は次のように述べています。 「生体サンプルは、採取後すぐにRNA が分解され、転写誘導のため遺伝子発現パターンにも変化が起こってしまうので、特に南極では、サンプル保存の方法が重要でした。私たちは、すばやく簡便にRNA やDNA サンプルを安定化するために、信頼しているQIAGEN のRNAlater を使用しました。」

極限環境における生物についての研究は、地球初期の生態系の理解を深めるとともに、火星や、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドゥスなどでの地球外生命の探索研究へつながっています。

アンダーセン博士は、「私たちは、地球上の制約のある同様の環境で、生命体がいかに対応するかをさらに研究し、火星の古代の水性堆積物を分析する準備を進めていきます。」と述べています。

今回の南極での調査は、研究チームの勇気ある探索と、好奇心、リーダーシップに支えられ、たいへん価値ある発見がなされました。アンダーセン博士たちのさらなる研究が期待されています。 本ページ上部のリンクから、南極でのダイビングの動画をご覧いただけます。また弊社のRNAlater とRNeasy のテクノロジーを利用した、優れたサンプルの保存および精製については、下記の注目製品をご覧ください。

References
Andersen, D.T. (2014) Diving for Science in Antarctica. The Explorers Journal 91, 30. 
Andersen, D.T., Sumner D.Y., Hawes, I., Webster-brown. J., McKay, C.P. (2011) Discovery of large conical stromatolites in Lake Untersee, Antarctica. Geobiology, 2, 280.

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